『予定通り』
…そう、ラクスからすれば言えるアラスカ攻防戦(連合呼称アラスカ守備戦)から約24時間後。
プラント最高評議会か、ラクス派らによるフリーダム奪取事件がないため、パトリックが罪を被せられないまま
穏健派たちが要請して、始まった臨時最高評議会では開始早々、パトリック・ザラ議長に対する責任追及と急進派への圧力がかかっていた。
穏健派と中道派が口を合わせてパトリックに対する行動と読みの甘さと追求した。
『パトリック・ザラはこの人口1500万の国家で、地球を統一できると思っているのかっ!』と、言及はそこまで追及される始末。
それもそのはず。
急進派最大の支持団体であったはずのフェアリー・ファクトリーは急進派から穏健派に移りつつあったのだ。
その最大の支持団体を失った急進派に、今までのような力は存在していない。
これはラクスが事前にそのもてる限りの史実情報を利用して行った工作であった。
事前に、プラント経済界に『クライン派が連合内部との交渉を続行している』という話をまわし、後に連合軍の軍備・MS増強の事実を公開する。
これによって、経済界はこの世界において、史実と違いオペレーション・スピットブレイクには反対だったのだ。
軍備の大増強をしているのなら、軍事基地で、しかも大規模生産施設でもあるアラスカの防衛能力が強化されているのは目に見えていた。
更には連合軍が大量のMS製造をしているなら、各防衛基地…
特に予定されていたパナマに配備されていたMSは圧倒的な数を誇っているのは火を見るより明らかだ。
しかも、この直前の作戦目標変更でアラスカに目標が移ったのにも関わらず、アラスカにすら大量のMSが配備されていたのだ。
そして、司令官のとっさの判断によって何とか兵士に関しては大した消耗は無かったものの、もしそのまま続行していた場合
ザフト攻撃部隊は全滅に近い大打撃を受けていたと予測されたのだから、いくら経済界も今のまま急進派支持をすることはできなかった。
それだけではない。旧ラクス派(現クライン派過激派)を中心に、講和は引き続き行うが、戦闘は続行するという
穏健派のほぼ統一された意見が経済界には届いており、別に急進派から穏健派に移しても、今までのような軍事関係による利益は得られるのだ。
この時点で、急進派、特にパトリック・ザラ議長の退陣はほぼ確定していた。
「議長の不信任案が可決されました…パトリック・ザラ議長。あなたはプラント最高評議会議長を解任されます。」
アイリーン・カナーバ議員の落ち着いた言葉が評議会の会場内で響き、パトリックはここに自分の政治生命が断たれたことを悟った。
急進派議員も実質的な権限を失い、プラント国内は大きな改編が始まろうとしていたのだった。
桜色の改編 第四話
この戦闘『オペレーション・スピットブレイク』の発動は、連合、プラント共に大きな変化をもたらしたといえる。
確かに、連合とプラントの心臓部…スピットを揺さぶる(ブレイク)させることにはなった。
もっとも、それがプラントにおいてはパトリック・ザラ議長以下の急進派に返ってくるとは発令時に予測できたものなのほとんどいない。
連合においては、ほぼ半壊状態のアラスカ基地の最高司令部を、グリーンランドの新最高司令部に移したのは良いが
大西洋連邦軍はほぼ壊滅した極東方面の東アジア・ユーラシア連邦海軍の変わりにアラスカに戦力を回さなくてはならなくなった。
連邦軍は、これにパナマ・ミッドウェーに待機していた第三洋上艦隊を向かわせ
換わりにグリーンランドに待機していた連邦軍第二洋上艦隊をパナマ防衛に差し向け、ユーラシア連邦軍北欧洋上艦隊がグリーンランド守備に入った。
大西洋連邦の基本方針は太平洋の奪還である。
特にパナマ基地防衛を第一とし、更には太平洋におけるハワイ諸島の奪還(この世界ではハワイはザフトに占拠)
それを持って速やかな太平洋地域における防衛を行う方針である。
換わりに大西洋は本国防衛の第一洋上艦隊以下の戦力は貼り付けておくものの、基本的にはユーラシア任せである。
大西洋連邦軍は、実質的なダメージこそそれほどのものではなかったが、ユーラシア・東アジアのダメージが予想以上に大きく
防衛に関して、自軍が戦力を割かなくてはならない状態となっていた。
これを大西洋連邦軍ができると言うことも、また大西洋連邦を超大国で知らしめる要因の一つではあるが
さすがの超大国も、その中枢…ワシントンの大統領官邸『ホワイトハウス』では早々安心できることばかりではなかった。
「オペレーション・スピットブレイクなどとプラント側が呼ぶ作戦によって、ユーラシアや東アジアのある程度の弱体化は
確かに我々大西洋連邦を連合最大の超大国にした…だが、これ以上の戦争はわが国を財政から破壊するだけであろう。
エネルギー問題が解決しなければ、失業者に満ち溢れ、凍死・餓死者が大量に現れるだけだ。
それでは、戦後の世界支配もままなら無いであろう。」
大西洋連邦大統領フランシス・オースチンは、自らの心情をまずそう信頼の置ける閣僚に話した後に会議を開いた。
急進派で知られる大統領だが、経済界からの圧力もあり
逆にこの連邦経済が瓦解する可能性を秘めた戦争に疑問を持っているのも事実なのが実際のところである。
この言葉はどこからか漏れ、急進派には『大統領は和平をするつもりなのでは』という見解を
穏健派には『一気に戦力を投入して短期決戦を目論んでいる』と言われ、後にさまざまな論議がなされるのだが
ともわれ、大統領が開いた閣議は連邦上層部と参謀本部の人間が多数含まれていた。
ピーター・ハッチ国防長官から、上記の通りに大西洋連邦海軍の報告がなされると会議は二分化された。
まず、急進派のハッチ国防長官たちがパナマ防衛では弱いとハワイ攻略作戦を推し
逆に穏健派である国務長官のスティーブ・サカイたちは、パナマ防衛に集中し、エネルギー問題の解決を第一にするべきと論ずる。
「ハワイを押さえておかなければ、大西洋連邦が太平洋を制覇するどころか本国防衛すら不安です。
ここはまずハワイ攻略でしょう。ザフト軍もかのアラスカ戦で消耗しているはずだ。」
「国防長官。先ほど海上戦力が大西洋と太平洋に二分化されていると言ったではないか。
しかも生産の方はエネルギー問題もあり、国民が増税や国債が増える事態に不安を募らせている。
まずはエネルギー問題を解決し、国内経済の再生に努めるべきだ。攻勢をするのならばその後であろう。」
大西洋連邦のアキレス腱は『エネルギー問題』であった。
MS計画には多大な費用とエネルギーが不可欠だ。それはMSが超精密機器ともいって良い機器を使用するためであり
いくら簡略化されたストライク・ダガーでも、製造に使うエネルギーはMAとは比べ物にならないほどだ。
史実では、MSは主として大西洋連邦中心で配備されていたから良かった。製造したMSを防衛に使う余裕は無く
前線に次々と投入していたため、表向きはそれなりの戦力を持っていたが、実際に連合はエネルギー不足で最終決戦前には倒れ掛かっていた
(もっとも、第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦の後にすぐに原子力発電は再開されたためどうにかなった)
また、青の軌跡では史実よりもだいぶ早いエネルギー解決が、それを可能とさせ、技術革新と同盟国へ次々とMSを売り出す要因ともなった。
だが、この時期にエネルギー問題が格段に上がったのには、何よりもMSが早期製造され、その能力が高く評価されたことにある。
つまり、史実ではMSは限定配備だったからそれほど問題は無かった。だが、早期に配備し、その能力が分かり
いざ量産…と言うときにエネルギー問題によるコスト高が各国の前に立ちふさがったのだ。
しかも、アラスカ戦における『ある意味では全滅してくれた方がよかった』的な微妙な『半壊』という状態もそれに含まれる。
半壊であるが、使えないことは無いためにその防衛に艦隊を配備し、修理部隊を送りと…予算が無駄に掛かってしまったのだ。
もっとも、軍部はそう考えてはいたものの、政府はユーラシア・東アジアとの仲が自爆よりはマシ程度という理由だけで
アズラエルが、提案していたそれに食いついていただけに強い事は言えないが。
「大西洋連邦政府はこのまま負けばかりでは困る。だが、だからと言って我々はプラントとだけ戦争をすればよいというわけではない。
ユーラシア・東アジアへのけん制、連合支配力を維持もしなければならないのだ…」
それに掛かる予算は膨大なものにならざぬえない。
所詮、戦争は政治の延長であり、政治的に戦争が困難な事態となってしまえば、政治は戦争をやめるしかない。
だが、イデオロギー、さらにはこの場合は生誕種差別を中心とした思想の浸透が大西洋連邦を自滅に導くのではないか…
急進派の大統領ですらそう思っているのだから、大西洋連邦はどうしても過激なイデオロギーを押さえ込むことに必死だ。
アズラエルの方向転身によって、大西洋連邦内部の過激派は大統領以下の連邦政府とアズラエル以下の経済界の挟み撃ちによって
だいぶ勢力を押さえ込まれており、大西洋連邦のブルーコスモス過激派はその勢力を大きく抑えられていた。
かといって、連邦内部にはいまだに民衆レベルでのブルーコスモス思想が根強くついている。
だから、財政や政治が戦争をやめたくても『やめることがてきない』情勢下となっていたのだ。
商務長官のマイケル・ウォーレス以下の経済界、ここではロゴスとも言える…もエネルギー問題を理由に、早期の戦争終結。
最悪の場合には、プラントとの講和も考慮に入れた政策を取るべきという穏健派的な考えを主張した。
「我々が生きるためには、武器以前に水、そして食料。そしてこれが文明社会なら電力だ。
それらのすべてが、現状の大西洋連邦には不足していると言っても過言ではないのです。大統領。
アズラエル財団がどれほどがんばってもNジャマーキャンセラーの開発には、早くても半年。ずれ込めば今年中の完成は無理かもしれません。
しかも完成しても、原子力発電所に装着できる程度で、エネルギー問題の解決にはなっても戦争終結のため…
核兵器の使用などはさらに数年の歳月を必要とするでしょう…それではわが国の経済は完全に軍需に傾いて戦後が危うくなりますっ!」
経済的にはすでに戦時体制だ。その状態では経済的に連邦はある程度の利潤は得ても戦後、恐ろしく肥大化した軍需産業のために
連邦経済は崩壊さぜるえない…そこをユーラシアや東アジアに突かれていたのでは、この戦争における
大西洋連邦の世界支配の計画が無意味となってしまう…暗黙のうちにウォーレスはそれを示唆していた。
さらに追い討ちをかけたのが財務長官であるウイリアム・サムナーの財政状況についての説明であった。
「現在のところ、大西洋連邦の財政はプラントから得ていた利益でまかなっておりましたが…
すでにそれは底へ達しようとし、国債の発行も始まっております…ここでさらに大規模攻勢ともなれば、さらに連邦の財政は赤字です。
さらに急進派、特に過激派の主張するプラント殲滅など行えば、さらに多数の出費だけではなく
戦後の財源そのものを失う事になりかねない。正直なところ、この以上の戦争は止めていただきたいのが財務長官としての意見です。」
「だが、そんなことできるはずがない…我々はプラントと、そしてコーディネイターと戦争をしているのです。」
軍部から出席していた中の一人、参謀本部のサザーランド大佐が財務長官の意見に反対論を述べるが
サザーランドは急進派でもアズラエル派で、さらに言えば財界派である。大西洋連邦政府に寄生しているとも言えるロゴスとしても
大西洋連邦政府の弱体化は好ましくない。軍事的にも財政的にもそれは同じだ。
「…財務長官、商務長官。我々、大西洋連邦は戦争をしているのだ。
理想論だけでは話にならない…なにか解決策はあるのか?」
大統領のその言葉はまさに矛盾している連邦の現状を表しているようであった。
何度も言うように、連邦の権限を拡張するためも含まれていた戦争で連邦が崩壊しては意味がない。
だが一度動いた戦争は止まる事は中々できない…大西洋連邦はすでに引けないところまで来ていると言ってよい。
と、二人の長官が黙ってしまう中、意外なところから発言はなされた。
「連邦の権威を抑えるためなら、要所を押さえれば済むことです。
その件に関しては連邦戦略作戦軍のミスティル・レイヤー少将との会談で出た内案なのですが…」
発言をしたのは…連邦下院議員代表の一人としてこの会議に出席していたマリア・クラウス女史であった。
過激派が『発言は許可していないっ!』と怒鳴るが、大統領は『…続けてくれ』と言ったため、マリアはそのまま続ける。
マリアは、あらかじめ用意していたかのように世界地図を会議室のメインスクリーンに映し出させる。
「世界地図をご覧ください。大西洋連邦の戦略ラインは現状の敵対国である『大洋州連合』を抑えるために
ハワイ基地とクリスマス島を奪還する必要性があります。
アフリカ共同体は自滅するのは近いでしょうが、独立運動の兆しのある南アメリカとアフリカを押さえられる基地が必要となります。
これにはセント・ヘレナ島…いえ、できればトリスタン・ダ・クーニャ島を抑える必要性があります。
これによって、大西洋と太平洋の制海権を維持することとなり、大西洋連邦は海洋国家としての権力を維持することができます。」
マリアは別に大西洋連邦を覇権国家にする気は早々なかった。
それ以前に大西洋連邦は海洋国家として世界に君臨することこそが自国にもっとも大きな利益を出すと考えていた。
「(そもそも、この戦争自体が連邦の覇権主義そのもの…だが、連邦は大敗を続けてこの方法そのものに疑問を持ちかけている…
過去に覇権主義を持った国家は荒廃の一途をたどった…連邦に再びその道を歩ませてはいけない…)」
大西洋連邦が、大西洋連邦と名乗る前の国家に『アメリカ合衆国』と言う国家があった。
だが、多くの犠牲を出し、世界平和に貢献していると自称していたアメリカは第三次世界大戦による大敗によって
海洋国家として…『大西洋連邦』として復活することとなる。
結局、プラントという植民地を見つけて以降、連邦は再び覇権主義の野望を持ってしまった…
これをどうにかしなければ連邦は、再び滅ぶしかないのが現状…マリアはそれを認識した上で
アズラエルが要請していたブルーコスモス穏健派への復権についても前向きの姿勢を出し
連邦議会では穏健派を束ねてあらゆるキャンペーンを展開し、穏健派軍人、政治家を次々と掌握していたのだ。
そこには、ラクスの提案した案件が覇権主義に類じる内容があったことも認めていた。
つまりは、ラクスがマリアを利用しているように、同時にマリアもラクスを利用しているにしか過ぎない。
「…私から戦略に関しては説明いたしましょう…」
マリアの言葉に合わせて話し始めたのは、連邦戦略作戦軍『ミスティル・レイヤー少将』マリアが話したという、その方であった。
連邦では少ない穏健派軍人(反ブルーコスモス派ではない)として傍観を史実では決め込み
ディスティニーの時代では、連邦のロゴス討伐軍への参加を頑なに拒否したこと方でもあるほどの戦略眼を持つ人物である。
それは、彼が連邦の統合戦略を立案する戦略作戦軍(参謀本部はこの中心)にいることでわかる。
と、50代ではあるものの、まだまだ若いものには負けられない策略家こと、ミスティル少将は重い腰を上げて話を始めた。
「大西洋連邦軍は、現在太平洋と大西洋の両面からザフト連合軍の圧力…ハワイとジブラルタルからの圧力を受けていると言って良い。」
そういうと、地図はパナマ地峡を中心とした大西洋と太平洋側の地図に変更される。
中心には連邦軍パナマ基地。西側にはザフト軍ハワイ基地、ならびにクリスマス島大洋州連合軍基地。
東側には、ザフト軍ジブラルタル基地。そして南アフリカ共同体と…
南アメリカとパナマ付近の中部アメリカは常時、ザフト軍の圧力を受けているのがわかる。
「さらに、先のアラスカ基地消滅、さらには洋上戦力の壊滅によって連合軍は
ザフト軍をパナマに攻撃させないための方法を失ったに等しい…第三洋上艦隊は余剰戦力ではなく防衛戦力だ…
アラスカ周辺に貼り付けておかなければならまい…となると
パナマに攻撃しようとザフトが動いたときのストッパーとしての戦力は存在しない。
戦略レベルで後方からの脅威がなくなったのだから当たり前だ。もっとも、ジブラルタル方面には十二分に危険性があり
ザフト軍がパナマを攻撃するならば、主力隊は消耗したとはいえアラスカ攻略軍の戦力が中心となるのは見えている。」
さすがのサザーランドも50代の老人ながら、この穏健派の狼と恐れられるミスティル少将は信望している。
『国家という生存圏の維持は断固として行う』ミスティル少将の考えはサザーランドの考えに通じるところもあるからだ。
「だが、逆にこれをザフト側から見ればどうなるか…それが今回の何よりも大切な話なのだ。
アズラエル理事の言うとおり、確かに奴らは責めてくるやもしれん…だが、マス・ドライバー破壊が容易でないことはわかっているはずだ。
主力隊がパナマに待機している情報はバレバレであろう。それに相手側は衛星軌道上の制宙権を持っている…
パナマ守備隊の戦力が圧倒的に増大していることは気づいているはず。
むしろ、アズラエル理事の行動はむしろ抑止力として効果が期待される。穏健派にプラント政権が変わったことも考慮に入れて。
そういった意味では、アズラエル理事の行動は的確であったと私とは支持する。
だが、安心ができるわけではない。これは正攻法ならの話で、もう相手が何かしらの方法で攻撃ができるのならば、これは
まったくの意味がない。その場合はアズラエル理事の手腕にかかっているとも言えよう。」
急進派が事実上崩壊した…
確かに政界には残っているし、ザフト軍の方にはたいした影響はないが、政治を穏健派が握ったことは
ラクスにとって大西洋連邦などの連合との講和に向けて、まずは第一歩ができたと言って良い。
議場では、とりあえず臨時新議長としてアイリーン・カナーバ議員が、更には現在の穏健派において大きな影響力を持つ
ラクス・クラインを最高評議会議員とすることなどを含めた内容が討議された。
ラクス・クラインを最高評議会に入れるなど、ふざけるなっ!…そういった意見があったのも事実だ。
たとえどれだけの功績があっても、小娘如きに政治に一舞台に立たせるのには無理があるという意見はそういう意味だ。
だが、ここでも彼女と、そのバックボーンにつきつつあったフェアリー・ファクトリーの圧力が掛かっていた。
ラクス嬢が事実上、プラントの軍需・民需産業そのものであるフェアリー・ファクトリーとのかかわりがある以上、議員は早々逆らえるはずがないのだ。
結果、ここにラクス・クラインを特例として臨時最高評議会議員にすることが決定され、同時にシーゲル・クラインや一部元議員を
臨時評議会議員とすることが決定された。
臨時最高評議会は『穏健派6、中道派2、急進派2』という割合の穏健派中心であることがわかる構成であり
プラント内部の急進派からは批判をされたものの、あれほどの大規模敗退を経験しただけあって大半の国民はそれほど異論はなかった。
問題は国防委員長の席であった。
その席に着くものは穏健派は良いとして、一体誰かだ。
もちろん現暫定議長のアイリーン・カナーバにすることはパトリックの二の舞と言う意味で拒否された。
結果として、これは穏健・ラクス派から、新しくプラントの各コロニー群とは別に特例で議員となったヒイラギ・カエデ(柊 楓)議員が内定する事になった。
ラクス派ということで一部穏健派内部でも口論とはなったが、ラクス派でも比較的まともな分類であり
穏健派を束ねる中心核の一人であるラクス・クラインとしてもそれ以上の適任者が見当たらなかったのが実情だった。
ちなみに各議員は何かしらの委員長となるのが定例であり、ラクス・クラインは軍需・民間産業界の癒着もあって
ラクス・クラインの希望もあって、外交委員会委員長に就任することとなった。
同時にプラント最高評議会は、今までの各市からの選出方法から、有能な人材ならどの市から何人選出しても良い事とした。
これは、戦時中の特例とされてはいたが、実際のところクライン家から二人出ていることは
アプリリウス市から二人出ている事実があり、それをごまかすための皮肉の策とも言われている。
ともわれ、そんな形でラクス・クラインは外交委員会の緊急召集を委員長に委任された後すぐに命令していた。
「(とにかく、プラント外交の道筋を統一することが必要ね…同時にラクス派である柊国防委員長とも歩調を取れるようにしないと。)」
ラクスとしては、ラクス派という区分は穏健派でも積極的穏健派という区分としている。
事実、柊国防委員長はザフト軍再編案から、パナマ攻略作戦にいたるまで、あらゆる可能性を模索している状態だ。
大西洋連邦との講和を考えているラクスとしては、連邦市民に対して入らない不信感を買わせるのは無駄なだけと考えており
パナマ攻略戦はほかの方法で代案を考えているが、ともわれ、外交委員会は委員長であるラクス・クラインが到着すると同時に開始された。
「皆さん、最高評議会よりの委任で外交委員会委員長になったラクス・クラインです。
まあ、皆さんの不満もありますかと思いますが、そんな悠長なこと入っている暇はありません。
スピットブレイク後の連合各国の情勢と国際関係について、まずは各方面を担当している担当者さん、報告を。」
最初、外交委員たちは、それが歌姫と賞されるラクス・クラインかと疑うほどの政治家ぶりに驚いていたらしく、一瞬反応が鈍ってしまった。
だが、すぐに理性を取り戻すと、そこはコーディネイターだけあって、すぐに報告を開始した。
「はっ、はい。大西洋連邦に関しては先の作戦の被害は最も低く、そのためか連邦盟主国として君臨する可能性があります。
すでに、ユーラシア・東アジアとアラスカ戦で大打撃を受けており、連邦の発言権は強まっています。」
「大西洋連邦ブルーコスモス急進派、軒並み過激派と我々が分類している勢力の弱体化も著しいです。
ブルーコスモス穏健派、およびアズラエル財団を中心とした財界が過激派を駆逐しております。主にはマスメディアを利用した作戦のようで…
このように、大西洋連邦の国民レベルでは色々と変化しつつあります。」
連合各国の情勢に関しては青の軌跡同様、大西洋連邦が事実上地球連合の盟主となりえる可能性を示唆してはいたが
ユーラシア・東アジアは共同歩調をとりつつあり、更には大西洋連邦ではマリア・クラウス議員が青の軌跡本編よりも相当早い
コーディネイターに関する偏見・差別についてのマスメディア放送等を開始していること。
だが、地球連合はワン・アース運動を開始する可能性がある事などが伝えられる。
外交委員の報告を聞きながら、ふとオーブ連合首長国について考えをめぐらせるラクス。
(あの国が滅ぼうともどうでもいいんだけどね…ザフト軍戦力使っているわけじゃないし…
だからって、無視というわけにもいかない…とりあえず、現状は大洋州連合との共同防衛案の提示と大西洋連邦への講和案提示ぐらいかな…
穏健派の議員に大西洋連邦への講和案は持って入ってもらって、同時にアズラエル理事との会談要請をしておかないと…
堪ったものじゃないわ…いくらファクトリー側に新技術要請しても限度って言うものがあるし…
まあ『フランベルジュ』に関しては3機ほどの試作機が完成したか…転生してからすぐに命令していたから当たり前かしら?)
ラクスは、個人的にフェアリー・ファクトリーに憑依後からアプローチをかけていた。
文句を入っていたのも、まったくの利益家であり、穏健派が再び議会を掌握できない時には試作機だけしか作らなかった
ファクトリーに対しての半ば、溜めごとにすぎない。
基本的に彼女が見ていた戦争ものはガンダムを除けば、いくらかの仮想戦記小説と…
(半分トンデモだった紺碧の○隊ぐらいかしら…まあ、コズミック・イラの世界なら、技術的に生かせない事はないけど。
フランベルジュにせよ、こっちの考えからだから…まあ『タケミカズチ』なんてそのままパクリみたいな空母出すんだから問題ないわよ)
そういえばネットで、あれは完全にパクリだと言われていたオーブ軍空母を思い出すラクス。
空母の存在は、この戦争における大きなアドバンテージだ。
基本的にラクスも、また物量主義者だ。だが、それは人口が少ないプラントでは無理だった。
の彼女は、それゆえに大西洋連邦やユーラシア・東アジア共和国の物量戦術に対抗する方法を見つけ出さなければならなかった。
ラクスが行きついた先は、製造を止める…つまりは工場の破壊に徹するべきという考えだ。
ある程度の時間さえ稼ければ、大西洋連邦との講和、また、ユーラシアや東アジアとの停戦も可能かもしれないからだ。
結果としてMSのような対地攻撃も可能な万能機なら、むしろ空を飛べる条件が必須だ。
確かにそういったオプションはあるが、それなら多機能機としてすべて飛べたほうが良いに決まっていた。
『プラントが戦争で勝つなら、プラントの利をすべて出さなければ勝てるはずが無い。』
ファクトリーへの要請時に、ラクスはそういった言葉を残していたのも彼女の考えを示しているといえよう。
「外交ですか…大西洋連邦とのパイプは事前に作ってありますわ。そちらとの交渉に私から既に指示を出しておりますわ。
問題はユーラシア・東アジア共和国です。カオシュン方面から進撃はほぼストップしていて、ヨーロッパ方面も西欧で行き詰りましたわね…
外交に関してもほぼ行き詰っているのでは?」
「確かに、戦闘が起きている地域では反コーディネイター感情…軒並みブルーコスモス思想の浸透が見られます…
大西洋連邦はむしろ、直接の戦場になっていないだけ逆の現象が起きているのでしょう。」
「そうでしょうね…同盟国に関しても…ですわね…外交をとにかく強化してください。大西洋連邦と中立国を重点的に。
同盟国には私から考えがあります。とにかくその二つに重点を。」
最初と変わって、終了時にはラクスの積極的外交論でほぼ全会一致していたのは、ある種彼女のカリスマ性なのか
それとも政策サイドの嫌がらせなのか(汗)
会議にてプラント外交は
一、大西洋連邦への積極的外交の推進。休戦も考慮に入れた広い視野での交渉
二、中立国に対しては、積極的中立維持を押し出し、今まで以上に中立国に対しての貿易を広げることを決定
三、同盟国に対しては、ラクス・クラインの方針を元に最高評議会およびファクトリー、ザフトの連携にて行う
四、一の大西洋連邦との外交推進に伴って、外交委員長自らの外交を積極化する
という今までの外交をほぼすべてひっくり返したような外交への変更が半ばラクスとラクス派によって強行された。
また、ラクスは最高評議会にも働きかけ、第三の案件の了承を取ると次々と軍事・民事を問わず行動に出た。
まずは現国防委員長であるヒイラギ・カエデ議員にラクス派の伝手を持って自身の考える
作戦について告げ、同時に地上軍のティア・ユリーシス太平洋方面司令に同様の作戦案を軍令部に働きかけるように伝達した。
その中で多少ラクス自身もあれこれ各界への圧力を同時にしたものだから頗る(すこぶる)忙しい。
結果として、ラクスはヒイラギ・カエデ、ティア・ユリーシス両名からの提案も呑む羽目となった。
カエデ国防委員長はパトリック・ザラの暗殺の取りやめ。ティア・ユリーシスからはラクスがファクトリーに申請していた
『フランベルジュ』の太平洋方面への先行投資まで確約されたのだ。
「まったく…まあこれなら太平洋からでも十分に行動可能範囲だけど…
まあ、これでパナマ崩壊戦がほぼわが軍は無傷でできるはず…連邦の反攻作戦を少しでも遅くさせないといけないのは自明の理。
そのためには試験兵器に投入するしかないか…ゲイツの生産はジェネシスとエターナル級の新造艦をすべて建造中止でどうにかなったけど…」
ファクトリーとの関係のあるラクス。ラクスと関係のあるカエデ国防委員長。
その繋がりでラクスはカエデが国防委員長になる前の要請通りにファクトリーに先行投資に近いゲイツの生産を要請していた。
ジンはすでに廃れつつある。ならば新型のゲイツを投入するために先行投資がある程度は必要となんとか説得させた結果だった。
政権奪取後、ラクス派の拡大とともにカエデ議員は国防委員長になり
彼女はゲイツ生産をおこなっているファクトリーに対して多額の資金援助を決定することにのちになるのもその密約ゆえであった。
とにかく、続いてファクトリー側に『フランベルジュ』の全建造機を太平洋方面に回すことを申請。
同時に作戦計画『オペレーション・ヨルムンガンド』への資材投入も要請した。
そもそも、ラクスとファクトリー間は政権奪取とその後の利益という癒着もあったからの支援だけあって、ラクスも手を焼いていた。
「とにかく、このまま単に製造するだけでは負けるだけです。たまには完膚無きままに相手を抑えないと。」
どことなく、某国防軍需産業連合理事から言っているならまだしも、ラクスには似合わない言葉である。
彼女の目標は連合の中枢を徹底的に叩くことだった。司令部を叩いてこそ指揮系統の混乱。
さらには、地球連合という軍事同盟に対しての揺さぶりにもなる。
大西洋連邦とも、またユーラシアや東アジアだって、自国以外はすべて仮想敵国である以上同盟も不利益にしかならなければ解消するしかない。
彼女の意思が通るのは、やはり監督のご加護なのか多少苦労したものの要請は通ることとなる。
なにか、世界に逆らっていた某理事とは大きな違いだが、それも彼女の特権なのかもしれない(笑)
とにかく、プラント本国ではその作戦『オペーション・ガヴァメント』は承認されることとなる。
後書き
最初はもっと、パトリックの暗殺でも書こうかと思いましたが、プラントという閉鎖空間で
パトリック殺したら軍あたりがうるさいだろうと言うことでやめてもらうことにしました。
大西洋連邦では、アンダーソン提督と対を成すほどの穏健派の名将
『ミスティル・レイヤー』少将の登場で純戦略的に攻略ポイントを絞り始めました。これがプラントにとって吉と出るか凶と出るか…
ラクスもラクスで、早めに新しい作戦を行う用意をします。もっともそれがどんなものかは後として。
外交基本方針も制定して、次回はちょっと色々とありそうです(笑)
ちなみに『オペレーション・ガヴァメント』と『オペレーション・ヨルムンガンド』は別々の作戦ですが、同時平行でもあります。
ラクスは一気に二つの作戦を立案し、それを有機的に連結して行動する…とまあ、そうだけ言っておきますねw