2201年8月に起きた『火星の後継者騒動』は、地球連合所属の宇宙軍少佐『ホシノ・ルリ』によって制圧された。



地球連合宇宙軍と地球連合統合平和維持軍(通称 統合軍)の合併は、当初の『統合軍に中に宇宙軍を吸収する』という案より

逆に連合宇宙軍に統合軍を吸収するということになった。理由として、統合軍の腐敗が主な原因だが

上が替わることになっても連合宇宙軍第四艦隊所属 機動戦艦ナデシコCにはどうでも良いことであったのかもしれない。


テンカワ・アキトに関しては、極秘機密とされたが連合政府とネルガルの間で折衝があり

『火星の後継者騒動時の連合の非公開内容を公開しない』でネルガルが譲歩し、はれてテンカワ・アキトの罪状は取り消しとなった。


五感に関しても、地球連合政府規定によって、極秘理に対ナノマシン兵器(科学兵器)として使われるのを恐れて

製作されていた対抗兵器『ナノマシン・デリート・プログラム』のデータを寄付することで決着がついていたため

彼に再び五感を感じる日が来たのであった。


余談だが、それに伴なって彼は、ミスマル・ユリカ、ホシノ・ルリのところに戻り、再び安息の日々を

ラピス・ラズリという新しい家族と共にすごす事となり、名前も

『テンカワ・ユリカ』 『テンカワ・ルリ』 『テンカワ・ラピス・ラズリ』と変えたのは、言うまでもないのかもしれない(汗)


尤も、ホシノ・ルリ改めテンカワ・ルリは連合宇宙軍の不沈艦として名高い『ナデシコシリーズ』最新型『ナデシコC』の艦長のため

彼らの家にいれることも多くはなく、テンカワ・ユリカにせよ連合参謀本部直属の准将としているのだから

時間の流れというものは時として恐ろしいものなのかもしれない。



そんなこんなで、現在、ナデシコCは地球に帰港していた。


 




新たなるナデシコ物語

第1話 始まりへの回廊......

 

 

 

 

宇宙という世界において、艦は小さい。

例え、世界最大の技術を持って建造され、この世界に『電子艦』の概念を作り出したナデシコCでも小さいものは小さかった。

もっといえば、彼、マキビ・ハリという少年も、また小さい戦艦にいる一人の人間に過ぎなかった。


ナデシコCは12月も末なこの季節に佐世保のドックに帰港した

(ナデシコシリーズは建造された場所はどこでも、形式上は佐世保を母港とされている)

 


今まで、ハードな訓練航海を続けていた艦へ、やっとの休憩ということで艦内は慌しかった。

 


「やっと…すね。艦長。」


「かれこれ、半年も宇宙で右へ左へと訓練航海を続けていましたからね。」

 


ハーリーのいる下部ブリッジへ上部ブリッジで話すルリとサブロウタの声も聞こえたきた。

ナデシコC艦長、テンカワ・ルリ大佐、同副長タカスギ・サブロウタ中佐、同副長補佐マキビ・ハリ大尉。

長年のこのコンビも、これほど訓練を続けていれば疲れる。

 


と、ハーリーもその話に混じろうとサブロウタにウインドウを開く。

 

 


「とはいっても、その帰港も三日程度じゃないですか。

タカスギ大尉はどうせ、佐世保近くのスナックなりバーなりでいちゃつくんじゃないですか?」



「おお、ハーリー。お前も来るか?」


「いきませんっ!」

 


まったく、何を考えているんだ、と思いつつ、横で、はあ…といいたげな顔をしているルリの方を向く。

もっとも、ウインドウを使ってだけど。

 


「ハーリー君も、サブロウタさんも、あまり浮かれないでくださいね。

どうせ年末年始は戦艦で過ごすんですから。それと、ハーリー君。軍司令部から帰港しだい、来てほしいといってきていますよ?」

 


ちょっと残念そうな顔でルリがいう。

ハーリーは忘れるはずも無いことだが、帰港しだい、ルリはハーリーと買い物に行かないかと言っていた。



裏でサブロウタやサクラ少尉は

『ルリ艦長、本命は誰だっ!トトカルチョ』を実施しており、このため、現在株のように変えることのできる

予想情報は、ハーリーに大きく傾きかかっていた。



やはり、本命のテンカワ・アキトはいまだ大きな比率を占めてはいるが、彼はユリカとラブラブモードを満喫しており

実際にくっつくことはないという理由から、ルリが諦められるかが焦点とされていることをハーリーは裏で知っていた。



なにやっているんですか…と赤面でサクラ少尉に言ったことをハーリーは思い出す。

 

 

はずかしい…

 


確かに、ハーリーはルリのことが好きだ。

だけど、といって、その相手の好きな人は誰だという賭け

(しかもサブロウタ&サクラという信用性があるような無いような人の予測)で自分が大きく上がっているといわれればなおさらだ。



「そうですか…すみません。」


「いいですよ。私も他にも用がありますし。時間が空いたら教えてくださいね。艦にいますので。」



そうは言ってくれたものの、やはり、ルリと買いにいける、と思っていただけガクリといっていた。



「ハーリー…大変だな。」


「サブロウタさんに心配される方がよっぽど問題ですよ…」



それを人は失礼という。


 

 

 


 

 

 

帰港したナデシコCから人が出て行く。


ナデシコCは多数のオペレーターを含む宇宙軍の新人たちの訓練をする艦に現在はなっている。

オペレーター育成のため、マシンチャイルドオペレーターが二人も乗るこのナデシコCは訓練に最適な場所であるため

毎回毎回、多数の新人オペレーターがここに訓練に来るのだ。



その新人のヘマもなって、今も昔もナデシコは波乱万丈な日々を送っていると周囲に言われているのはご愛想である。



と、大半のクルーはこの休みを十分満喫するため、全員休暇となっていた。


本来ならそんなことはしないが、半年も戦艦に一日の休みも無く拘束していたわけであるし

この佐世保ドックの整備部がいる以上、整備に人を入れておく必要もなしということで

ワンマンオペレーション戦艦ナデシコCには、ルリ以下のほんの一部の人だけが残ることとなっていた。


と呼ばれていたハーリーはかったるそうにナデシコCを後にした。


以外とナデシコクルーは知らないが、ハーリーはこういった事務が嫌いである。

かつて、といっても5歳のころまでは人間開発センターのホシノ・ルリ(11)と似たようなものであった。


無口で無関心というところは、まさしく、などとマキビ博士のいた人工人類研究センター(ネルガル傘元)の職員で

人間開発センターに行ったことのある人間は噂していたほどだ。



「はあ……面倒だなぁ…なんで、僕が呼ばれないといけないのさぁ…」



面倒でかったるい…などと言うのも、そのときの名残であり、もっといえばルリの前では絶対に見せられないような彼の一面であったりする。

尤も隠しているようで、サブロウタもルリもうすうす気づいているのだが。




「それは、地球連合政府のお偉いさんがハーリーに用だからよ?」



不幸は突然来る。

ハーリー=不幸、という言葉がルリにハーリーはルリのことが好きだと気づいてもらえないのは不幸だからと裏では囁かれている中

ハーリーにとって『幸福にして不幸の運び人』の声が後ろからした。



はあ……そういうことか…と思いつつ、がっくりとしながら対応する。



「はいはい、地球連合政府のお偉いさんのカナ姉さん?」



「その通り♪地球連合情報本部局マキビ・カナ少将とは私のこと。

って、もうちょっと驚いてほしいわね、ハーリー。」



「驚くのも呆れるんですよ。姉さんの行動自体が。」



「あら、こちらの言葉の攻撃をかわしてくれて。C艦にも私みたいな野次馬がいるのかしら。

って、そんな世間話をしにきたんじゃない。」



ハーリー自身も呆れて自慢にすらならないことだが、彼には姉がいる。

もちろん、ルリにもサブロウタにも恥ずかしくていえない姉だ。

マキビ・カナ、義理の姉は強度のブラコンなのだ。つまりは…



「もう、ハーリー可愛い♪」



「ふっつくの、いつも言いますけどやめてくださいっ!迷惑ですっ!」



抱きつく形でふっつくカナに放せと無理やりハーリーがカナをどかす。

まったく、連合佐世保ドックの比較的大きな通路で抱きつかれて、誰か歩いていたらすぐに噂になってしまう。

しかも、見た目は美人で優秀そうで、しかも将官である姉とヘンな勘違いされればいい迷惑だ。

しかも、義理の姉だから見た目姉弟という感じがしない。



「もうっ、照れ屋さんなんだから。まあ、とにかく、貴賓室で話のほうはするわ。

色々と織り込み済みで話をするから。」



「姉さんの伝えることはいつも迷惑な話ばっかりだ…前は、アキトさんの居場所というなんで知ったのか…」



時に姉の情報能力には凄いものがある…が使えたことが滅多に無い。


アキトのことはまだしも、ルリのA艦の時代に実は一度無くしてしまってプロスに内緒にしてもらっていたコミュニケの場所や

更には、オモイカネの裏コードまで、どうして知ったと聞きたくなる話までたくさん姉は持ってくるのだ。



「あれは、うちの諜報員の能力よ。ネルガルにも隠れているの。」



「ネルガル・マーベリックグループに統合合併して、地球圏最大の企業に返り咲くのを予測していたみたいじゃないですか。」



実は、ネルガルそのものと裏で繋がっているんじゃ?と言いたくなったがあえて抑えておいた。


ネルガルが昨年、北米の大型企業連合体『マーベリックグループ』と対等合併し、ネルガル・マーベリックグループとなり

世界最大の企業となったとき、ネルガルの株の10%を持っていた姉は、その儲かりだけで一生過ごせるなとど言っていたが…



「まあ、それは言い過ぎね。私は事実から真実を見つけ出しただけ。

事実、ネルガルとマーベリック社が裏で交渉している事実から、合併するという真実を私は当てただけ。」



その事実を知っていることが問題なんですよ…と突っ込むのはやめておく。

この姉に無駄なつっこみをするだけ時間と労力が無駄だ。




と、歩いているとすぐに貴賓室、いわゆるVIPルームに到着した。

しかも、その部屋の前にはしっかりと姉疑惑『妹』という、もちろん戸籍すら違うが…

メノウ・コンドュール大佐は見るからにご乱心の様子だった。

カナ…公式の場では別にマユセ・ミホという名前があるらしい、彼女を見つけるとすぐに迫りよってきた。



「ミホ様ッ!あなた、自分が連合の裏を取り仕切る人間だって認識していられますか?!

いえ、していませんよねっ!?していれば、そんなフラフラと出て行くなんて無用心の塊みたいなことできませんものねッ!?

あなたの性格は分かっていますが、といって暗殺者が一週間に一人は見つかるぐらいなんですから

自分の立場を…って聞いていますかッ!」



言い訳を一切許さない、というまさに姉にはちょうど良い副官だとハーリーは切実に思う。

こんなメノウも、実はマシンチャイルドというから、姉の精神がさっぱりわからない。

マシンチャイルド保護はいい、だが『妹』って…



「まあまあ、メノウも抑えて抑えて、今回はハーリーも来ているわけだし。」



「何が抑えてですかっ!だいたい…って、ハーリー!?

ああ、す、すみません、ハリ様もいるとは思わず……」



ははは…と笑うしかないハーリーであった。

この姉自称『妹』、メノウはかつて自分の家で使用人をしていた人である。

研究に没頭としすぎて料理ぜんぜんダメのマキビ夫妻に、炊事洗濯が完璧にダメな姉、カナ。



自分はその当時五歳、しかも周りは無愛想というほどの、愛想のない少年だ。


まあ、その当時の僕に感情その他諸々教えたのは、姉だからその点ではお嬢様な姉には色々とお世話になっていたが。

当時20歳の姉、カナはどこからか8歳のメノウともう一人…ヒスイ・イズール現マキビ家使用人…を連れてきて



『これから、掃除洗濯その他をやることになっているから。』なとど能天気に言った姉が頭に浮かぶ。


それ以来、メノウはカナの秘書のようなことをし、ヒスイは殆ど家の家事大半を担当している。

現在、メノウは辞めてしまったがヒスイは今でも豪邸…という分類に入るマキビ家の使用人だ。


その名残か、使用人時代から様付けであったためか、今でもメノウはハーリーのことを様付け

しかも、しっかりと本名のハリで呼ぶ。



そのことにハーリーの頭の中で行き着くと、ハーリーというあだ名のことまで思い出してしまった。

ハーリーというのは、そもそもサブロウタがつけたものだ。




ナデシコBに入ったばかりで、慣れない尉官という待遇での戦艦生活は、わずか10歳程度の男の子には厳しい。

自分で言うのもなんだが、普通なら絶対にありえないことからしてそう思う。



ナデシコでも尉官、または佐官はほんの一部だ。

大概は兵曹長や曹長や軍曹などの位であり、ナデシコという特殊な場所でも大体それは保たれている。



20歳や30歳のしかもプライドのある人間がいれば、遺伝子操作で得た地位、なとど考えるのも無理はない。

まだ、艦長は良かった。

連合軍総司令ミスマル・コウイチロウ大将の力や、実際にナデシコAの戦歴を見れば文句は言えない。



だが、なにかしたわけでもない、ただマシンチャイルドというだけの子供が尉官というのは、納得できるものではなかっただろう。

今、思えば当時大佐だった姉の存在そのものが、自分にもそれなりの圧力になっていたとも今になれば感じるが。



と、そんなわけで硬かった自分が、ナデシコに溶け込めたのもそういう意味では順応性のあるサクラ准尉と

サブロウタさんのおかげであっただろう。



ハリという名前を聞き次第、サクラがハーリー君ね、などと言い、サブロウタが途端に広めてしまったのだ。

しかも『おお、副長命令だ。ハーリーのことはこれからハーリーと呼べ。少尉なんていう必要ねえぞ?』といってまわるものだから

恥ずかしいことその上ない。



しかも一目惚れした艦長と初めて個人的に話したときに

『えっと…タカスギ大尉が言っていましたけど、マキビ・ハーリー君でしたっけ?』

なとど言われてみれば、恥ずかしいこと恥ずかしいこと…



しかも、いつの間にか姉にもその噂が回っている始末。はあ…とため息をつきたくなるハーリーだ。



「あら、ハリ様。どうかなされました?ため息ついて。」



「いいえ。なんでもないです…はい、失礼しますね。」



さすがは貴賓室。しかも、この佐世保でも将官レベルが使う貴賓室は、大企業の社長程度しかあとは使うことなどない。

そう思わせるほどの豪華な部屋なのだ。


佐世保でも年に数回、あるいは十数回使われる程度の部屋らしいから、相当なものなのはすぐにわかる。

自分が見てもそう思うと、この姉は将官なんだなぁ…と信じられないようなそうな感じの気持ちにさせる。



「さっそくだけど、まずはハーリーに頼まれていた資料の最後よ。

これを見れば、あなたは引けなくなる。あなたに依頼されていたデータの検証データも含まれている。」



そう、自分には知りたい一つのことがある。

自分はいったいどういった過程で産まれたか…マシンチャイルド計画の全貌といえば大げさだが

そういったものを、自分は知りたかった。


マシンチャイルド保護規制法が来年から施行されれば、マシンチャイルド計画に関するデータは事実上、連合政府とネルガルが

完全に封鎖することとなり、その情報を得たものは罰させられる。


なら、見るのは今しかなかった。そして、それは自分が一番頼りになると思う人物、情報局の姉に頼むのが筋だった。



「人類の飽くなき欲望の果て、それがマシンチャイルド計画。いえ、アリス・プロジェクトね。」



「アリス……えっと、姉さんが前にくれた資料だと『鏡の国のアリス』とかに出てくるアリスやアリス・ミスティオールさんみたいな

完璧な人間を作り出すという計画だったね。」



ここである人物について紹介しなければならない。

アリス・ミスティオール…かつて、地球連合…当時、地球連合制定の理由となる22世紀末に行われた

『地球人類宣言』より前、まだ地球諸国を纏める機関が国際連合であった時代、しかも21世紀末に突如として現れた天才児の名前である。

聖母マリアの生まれ変わりとまで言われた彼女の功績は著しいものであった。



地球のあらゆる機関に先駆けて作られた核融合エンジンと推進用核パルスエンジンを製造し

宇宙開発の先駆けと同時に、初期の重力制御装置の開発、ビーム、レーザー技術の開発とそれは兵器転用されたものの

地上で石油資源枯渇後、低迷していた人類の権威を復活させるばかりか、低下の一途を辿っていた総人口を再び右上がりにさせた。


しかも、それで得た莫大な資金は、貧困な地域への支援に回され、更には後に地球人類宣言へと向かう地球連合への流れも

その誰とも話を聞き、話した人間を幸せな気持ちにさせる力は確かに完璧な人間…おとぎ話のアリスと言って等しかった。

 


彼女は、月面の自治区騒ぎで事故死してしまい、その時、彼女が作り出していた復興及び多目的産業企業はネルガル重工と

マーベリックグループに分かれるものの、後に発展し今では再び合併している。



「そう。しかも、前のそれを遥かに上回る…コンピュータとしての能力だけはね。」



彼女の身体的能力も、また完全な人間と言われる所以だ。 

ナノマシンテクノロジーが開発され始めた時期で、また、それを自らの体に投入した方式のオペレーターといえるそれを

彼女は使うことでコンピュータで処理を円滑に行ったわけであるし

また体力的にも、並みのシークレットサービス程度では意味がない程度の能力があったといわれている。

多少、膨張した内容であったにせよ、確かにそうであったらしい。



「でも、完成体はできず、一時その計画は凍結されて、2170年代に再開ですか。」



「基本的に遺伝子改編技術が発達したのはその年代の少し前。今じゃ、重症患者の遺伝子からそっくりそのまま健康な

皮膚その他諸々ができる時代だもんね。」



地球連合設立は、2170年代初頭であり、22世紀末に制定された『地球人類宣言』が設立の時とはなっているが

2100年より前に、既に国際連合では全世界レベルの事件に対処はできなくなっていた。


月の自治区の件も、国際連合とは関係なく、地球の各国家が自分たちの頭を月面に抑えられることを拒んでの行動であった。

彼らとしても、切羽詰っていたわけだが、その事件の最中でアリスは死亡。


今では完全に時の人となったはずであった。その彼女の死亡から連合主要国の権威喪失

次点で、安全保障理事会に入ってない連合主流国であったドイツ、日本を中心に経済成長が始まり、結果は地球連合成立となった。




「その結果は、ホシノ・ルリというのは間違えでは無いわ。

彼女の場合、アリスのオリジナルから血筋の近い人間ではなかったけど、遺伝子操作が比較的容易であったため

遺伝子操作で、オリジナルの七割強の完全さ、といえばおかしいけどそれを持った人間になった。

今、第二世代と呼ばれるマシンチャイルドはほぼすべてホシノ・ルリを土台とし、量産に向いた能力を試すために作られたものね。

一応、ハーリーもこの分類に入るけど…」



「アリスから作られたものは、すべて『女性』のはずですわ。カナ様、ハリ様。」



横から口を突っ込んできたメノウもそれは気にかけていた事件であったようだ。



無理もない…とハーリーは思った。

彼女もマシンチャイルドだ。自分と同じはずの。


だが、素朴な疑問から沸いた真実は、自分の予想を既に逸脱し始めていた。


自分は『マシンチャイルドプロジェクト』の大本であったはずのアリス・プロジェクトのマシンチャイルドではない。

まあ、僕が女性だったら分からないけど…なとど思ってみるものの、最低でもアリス、そして


現代マシンチャイルドの基礎となっていて、自分の上司で憧れの人であるホシノ・ルリでもない。




「そうね。そして、その事実がどんなものでも見るつもり?」



その事実を知りたいと思ったのは些細なことだ。

ルリも自分の誕生のルーツを知りたいと思ったのと殆ど同じだ。そして、彼もまた、自分のルーツが知りたかっただけだった。




「ええ。でも、まずは家に帰るよ。ここだと、ゆっくり見れないし、ナデシコはもっと難しいから。

姉さんはどうするの?一応、姉さんも帰るなら僕が家の方に帰ること伝えてあげるけど?」



「えっ、ハーリー帰るの?じゃあ、私も…」



「カナさま…(怒)」



どうやら、後ろで雷を爆発させている女性を見る限り、姉は到底帰られそうにないらしい。

そのまま、ひそひそ足で彼は、自分の家へと向かうことにした。


 






 

 

 

 

お昼である。

今日のテンカワ・ルリ大佐の仕事はなぜかお昼から始まる。


通常勤務なら、朝8時から夜も遅くまでが基本だが、艦内の大半のクルーはいないし、仕事といった仕事はないし

もっといえば、彼女は低血圧な人間なので朝は基本的に苦手な人間なのだ。



ハーリーとの買い物も無くなったため、とにかく寝るの一手である。


ちなみに、ハーリーに入っていた別の用なんていうものはもちろんない。

口からのでまかせみたいなものだ。


ナデシコCという最高レベルのセキュリティーを誇る戦艦なら、緊急時も安心であるし

更には、他の場所だとユリカなりなんなりが来る可能性が高い。

彼女は、この日とにかく眠たかったのでとりあえずベットで寝ていたかったわけである。



が、まあさすがに、艦長が同じく艦内待機のクルーがいるのにもかかわらず、午後の任務まで寝ていたではすまされないわけで

ブリッジに上がってきたのが午後2時半であった。



「おそようございます、ルリ艦長。」



「それは、私に対する嫌味ふぁわわぁぁぁ…ですか?サクラさん。」



「せめてブリッジであくびするのはやめた方がいいと思いますよ。」



いきなりのきつい一言で、さすがにルリも参り、普通通り業務を開始する。

といっても、オモイカネを使えば数秒程度の簡単なメールチェックなどが今の主流だ。

航海等はまだ先であり、更には艦内の納品等もハーリーが行く前にすべて終わらせていた。

ハーリー君様々ですね…なとど心の中で思っておきつつ、メールのチェックを開始する。



と、ある程度のメールチェックが終わりそうなときであった。

横からハタノ少尉が報告が…といって上部ブリッジに上がってきたのだった。




「そういえば、艦長。郵便です。」



「ゆ、郵便ですか?しかも二通も?」



この時代でも、紙の媒体は多く使われるが、通信手段からはだいぶ遠くなっている。

電話やテレビ電話システム、いわゆるウインドウ通信システムの発達は、手紙で伝える必要性が薄くなり

更には、文章ならメールという、ある意味では利便性を中心に郵便は少なくなりつつある。


もっといえば、どこにいるか分からない軍人では、郵便などとは無縁の存在だ。

それゆえ、少し怪しそうにその手紙をチェックし始める。



「一通目は…アキトさんですね。もうすぐ一軒家で中華専門店を出すから来てね、ですか。

でも、この手紙自体が半年ぐらい前のですね…(汗)

6ヶ月ほど前にこの話、ユリカさん経由で聞きましたし。まあ、手紙ですから仕方ないですけど。」



そういうことを忘れて送るところがアキトさんらしいですね、とクスッと笑うと次の郵便に手を出す。



「こっちは上質でしかもなんとも形式に凝った手紙じゃないですか?」



「ええ、艦長。それは連合政府からの郵便等に使われるものですよ。私も何度か本部付きだったときに見ましたし。」



ハタノ少尉と共に来ていた新任のラザフィード准尉が余計かどうかは後として一言入れる。



「はあ……連合政府が私に何の用でしょうか…」



殆どため口に近い状況で手紙の口をあけて、中身を取り出す。

中身も十分に上質紙であり、更には字も達筆であり、最低でもユリカでないことは確かであった(微笑)



「…新地球連合統合参謀本部大佐メノウ・コンドュール、連合軍上層部の人が何のようなんでしょうか?」



ルリも大佐で、選任大佐もルリなのだが、指揮系統から参謀本部の人間であるメノウの方が順位は上であった。

ちなみに、ユリカは新地球連合宇宙軍参謀本部の人間で、この地球連合統合参謀本部はこれらの参謀本部の統括組織である。



「連名で、マユセ・ミホ新地球連合軍情報本部司令の少将の名前も入っているなぁ?」



「オオヤカ中尉、何を勝手に見ているんですか…」



現在の新地球連合軍は、地上軍たる陸軍、海軍、空軍、いわゆる地球連合統合平和維持軍と連合宇宙軍に加えて

情報専門の情報本部たる統合情報軍が存在している。



今まで、連合本部の一部に過ぎなかった組織はここまで拡大されたのだが、それでも司令はいまだ少将程度である。

でも、十分に少将だとルリではつりあうはずもない。



「艦長、これ、臨検査察に向かうって趣旨の手紙なんじゃ…」



「はい?ど、どれどれ…」



『23日午後3時より貴艦の臨検を行うものとする、連合情報軍司令 マユセ・ミホ少将。

追伸、ナデシコクルーは定員でなくとも、艦長一人であったしても臨検は行うものとする。』



確かにそのようだ…って



「それって、連合軍の将官が来るってことですよね?

って、凄く問題ありありじゃないですか…艦内整理は早くお願いしますよ。」



ある意味問題ある言葉を連発しながら、彼女の正しく動けばしっかりと動くが間違えればとにかく間違ったまま動く頭は

間違った方向にフル回転して始まったのだった。

これから起きる事件にも気づかずに…


 

 

 

 

後書き

ええ、今回はですね、一度私の書いた駄作を友人に見せたわけです。

すると、文章構成等に色々と文句つけられた挙句に、話がごちゃ混ぜで分かりづらいという結論に達しました。

で、話の中身を一部残しつつ話を再編したわけです。

ええ、改定前のを知っている方は失礼ですが、そのことは頭の奥の方に閉まっておいて掘り出さないでください。

ネタバレ一部アリアリなので(尤も、大半は大幅変更です)

話を連結し、再編するに当たってハーリーの姉=ミホ様になってしまっています。

IT業界に波乱の波を出したホリエ○ン風に言えば想定外の事態なわけです。

ハーリー君に姉がいてもおかしくないと思いますから、まあオリジナルで出したかったのと合わせればよいかなと。

今年、ナデシコ十周年の記念の年となりますけど、十年経ってもこれだけのファンがいるなら続編やってほしいものです。

監督もやらないと言っていますから、やらないのでしょうが、やれは確実に自分は見ますね。

手元にあるナデシコ完全コンプリートCD−BOX(2006年2月8日発売)の曲を聞きながらですが今回はこれで終わらせてもらいます。

では、次回をお楽しみに。

 

あ、メールなどの感想やご意見、更にはカナ様っっ!!などの意見(汗)を待っています。

メールが無理なら、掲示板でも結構です。以外とあなたの意見が話の流れを変えたりして…