ナノマシン・デリート・プログラム……
テンカワ・アキトで初めて使用され、体内・体外ナノマシンの除去技術は
予想を超えた大反響を呼んだ。
マシンチャイルドの一部が使用して、自らマシンチャイルドであることを辞めたり
また、デリート・プログラムを利用して、有害なナノマシンの除去も可能となったからだ。
だが、その技術にせよ、その土台に対マシンチャイルド、対ナノマシン兵器対策のために
時の旧地球連合が警戒したという事実は、哀しいことだが戦争と言う土台がなければできなかったことは
どの時代でも同じことなのかもしれない。
マシンチャイルドもアリス・プロジェクトと呼ばれるときのアリス製造計画から始まったものであったのにも拘らず
戦争のためのマシンチャイルドとまで呼ばせたのは、不幸にもホシノ・ルリというマシンチャイルドのためであり
更には、彼女はそうであることが嫌であったのにも関わらず、そう認知されたのも
彼女とその機動戦艦ナデシコ、木連大戦が重なったためという最悪の事態であったのは、ある意味で不幸としか言いようがない。
だが、火星…
ボソンジャンプテクノロジーの宝庫とされる、その星への移住はいまだに許可されていない中
連合国民は、いまだに火星の本当の意味を知らないまま過ごしていた。
そう、平和のままに……
新たなるナデシコ物語
第2話 光の巫女〜アリス・ミスティオール〜
アリス・ミスティオール、かつて地球圏を騒がせた彼女の死はあっけないものであった。
月の独立戦争、その時、彼女は地球と月との仲裁役として月面都市を訪れていた。
その時、月の過激派によって、死亡したとされている。
その死を悲劇として、地球の軍事大国、宗教国は軍を持って月面への報復を極秘に行った。
たとえ、事実がばれたとしても、アリスの死を口実にごまかせると踏んだからだ。
だが、その世界の流れの中で、彼女ほどの人間がなぜそう易々と死んだのか、それについて問われたことはなかった。
また、ホシノ・ルリが行ったシステム掌握戦術以後、地球連合としてもルリへの警戒行動を強めたものの
未だに連合への影響力が続くミスティオール家…アリスの家系の人間は、ホシノ・ルリをかばったという噂もまた、あったのだ。
これが、何と関係するか…
それを知るものはごく一部で、事実は開封しようとする人間は、ほぼ皆無に等しかったのだ。
自称、天才美女新妻ことテンカワ・ユリカ嬢はその日、仕事を終えて彼女の今の養子であるラピス・ラズリ嬢
と元に、アキトのいる家(一軒家 ただし平屋の築約40年)へと向かっていた。
ラピスは、いまではしっかりアキトだけに生きる子がユリカのことが好きになったらしく
アキト疑惑『アキト離れ』が深刻化しているらしい(微笑)
ある意味で、ラピスにとって、テンカワ・ユリカという人物が与えた影響は相当なもののようだ。
その二人は、近所でその日のおかず(もちろん、アキトに言われたものである)を買って帰る最中であった。
「サンマ♪サンマ♪アキトの今日の夕食なんだろな♪」
とても20代後半の女性とは思えない天真爛漫ぶりである。いや、むしろ……
「バカップルっていう奴ですね…」
このごろ、昔のルリ(11歳のころ)がマイブームという、ちょっと変な趣味に偏ったような少女、ラピス・ラズリは
呆れ顔で、だがしっかりとユリカとは手を繋いだまま歩いていた。
「ふ〜〜ん♪アキトの作った夕ご飯は美味しいなぁ〜〜♪」
「……あ、あれって、マキビ・ハリさん?」
「へぇっ?」
ラピスの言う方向を見るユリカ。確かに、そこにはハーリーらしき人間はひとり、しかもこの近所では有名な豪邸の前に立っていた。
そのハーリーはと言うと…
「はあ……まったく、この家に帰ることになるとは…やっぱり、ナデシコに戻った方が良かったかもしれない…」
まったく、ため息の多い少年、マキビ・ハリである。
ナデシコでは真面目に見えるこの少年…単に周りが彼よりも非常識な人間なだけで、彼だってかったるいことの一つや二つは
あるものだ。
「ああ、ハーリー君ッッ♪!!やっほ〜〜ィ!!ユリカだよォ!!!」
どことなく、彼の艦の艦長、テンカワ・ルリの義姉(?)であるテンカワ・ユリカの声を聞こえた気がした。
まあ、そうだとしたら近所のことを考えずに大声で叫んでいることになるが。
「まさか…って、本当に叫んでいるのはユリカさんっっ!!?っていうか、これじゃ、配役間違えてませんかっ!!?」
意味のわからないことを言うハーリー君だったが、全速力で接近してくるユリカから、もう避けられそうもなかった。
ドンッッ!!プニュッ♪(微笑)
もし、某種運命なら『ラッキースケベ』とでも言われそうな光景が完成していた。
しかも、どことなく声の似ている二人の(実際に桑島法子さんですからね、種の彼女の役)光景を最初に見たのは
なんというか……ラピスであった。
「ユリカ姉さん、ちょっと早すぎです…あ…」
「いたた、テンカワ・ユリカさん、いきなり…うわぁっ!(赤面)」
ミナトさんの時と同じ光景が目の前に展開されれば、さすがにハーリーだって参る。
つまりは……ミナト嬢に続き、ナデシコではその…が二位と言われる彼女が、彼の頭に激突していたのだった(微笑)
「ははは、ハーリー君ごめんねぇ〜〜♪それにしても、なんでこんなところにいるの?」
「いえ、そ、その…この家……」
ユリカが無茶苦茶でも満面の笑みをしていただけで周りが和むのは、ある意味凄い技だなと思ってしまうハーリーであった。
と、ハーリーがさした家は例の豪邸。何度も言うがこの地域ではそれなりに知れた名家である。
「ほへぇ?なになに、この家ってハーリーの知り合いの家だったの?へぇ〜〜〜♪」
「ち、違います…その、僕の家ですけど…」
………………ほへ?
目の前には、大豪邸。この入り口から家までの距離だけでユリカたちの住む家がいくつか入りそうなほどの庭を持つ家であるほどだ。
(もっとも、名家ミスマル家とほぼ同じぐらいの広さですけど)
「これがっっ!!ハーリー君の家ぇぇっっ?!!♪」
「ここが…マキビさんの家?」
叫んで、ほぇぇっっ!!!すごいなぁ〜〜、なんて言っているユリカと、冷静なラピスの差が分かりやすい
人の性格って、こういうところに来るものなんだなぁ…なんて感じた。
「まあ、そうなんです。ネルガルの研究局の局長だからお金は相当なものがあるそうですし
母さんは名家の令嬢らしいですし、姉さんは連合の…い、いえ、なんでもありません。」
姉は連合統合情報軍司令…ということは極秘で、さすがにユリカさんにもいえませんよね?
と思うハーリーだったが、とにかく話すのはやめておくことにする。
と、その豪邸からユリカの大声で何事かと一人の女性が上がってきていた。
「なにかうちに御用…あら、ハリさんじゃないですか。」
マキビ家の使用人の一人、ヒスイ・イズールが玄関口に到着したときには、叫ぶユリカと、はあ、とため息をつくハーリー
そんなハーリーに『大変ですよね、ユリカさんといるのもルリさんといるのも』と同情の眼差しを見せるラピスであった。
「あ、こんにちは。私はラピス・ラズリです。よろしくお願いします。」
後ろで叫んでいるユリカとため息をつくハーリーの二人の横にいるのに妙に普通らしいラピス。変な光景だ。
(よく考えると、よくラピスが壊れているSSが多いですよね、とくにハーリーを虐めているタイプとか
ラピスって、こんなタイプもいるんだよ、っていうのを作ってみたつもりですけど、どうでしょうか?)
「あ、はい。私はこのマキビ家の使用人でヒスイ・イズールと申します。よろしくお願いしますわ。
…って、なぜ挨拶しているんでしょうね。ハリさん、なんでそこで茫然としているんですか?」
あっ、と意識が元に戻ったハーリーは、目の前にそういえば自分の家にいるはずのヒスイが目の前にいることを確認した。
あの後、渡しがゃっておくから報告しないで良いと姉は言っていたのだが…
「はあ、姉さんは何も報告してこなかったんですか?」
「はい、カナさんからは何も。メノウちゃんからは色々と送られてくるんですけどね。
と、とにかくまずは家にお上がりください。ハリさんもラズリさんもテンカワ・ユリカさんですよね、みなさんまずはどうぞ。」
佐世保のネルガル重工ドックと、地球連合宇宙軍ドックは今は完全に別となっている。
木連大戦時は、ネルガルが軍に借りていたが、軍需産業企業として、自前のドックを持ちたいのは当たり前だ。
もっとも、佐世保のネルガル重工ドックにはナデシコAが
20世紀からの悪しき風習というか、よき風習というか展示艦とされ、見学者も以外と多い。
もっとも、ナデシコCは連合宇宙軍ドックの方に止まっていて、ナデシコAの後衛艦がそこにあるとも知らず
見学者は連合宇宙軍ドックは素通りしていくわけだが、ハーリーと話をした後
まず昼食、と言うカナの言葉で近くの雪谷食堂(以外と佐世保の軍人の間では有名)で食事をしてナデシコCのある
新地球連合宇宙軍第七大型艦艇用ドック前に到着していた。
新地球連合統合情報軍、またはその裏に存在し、地球連合政府からの要請で特務諜報活動を行う
新地球連合政府直属の非公開特務機関『フェアリー・ガーディアンズ』の司令であるカナ(ミホ)とお供(笑)のメノウは
一人が楽そうに何も持たず、一人は色々と書類を持って前方不注意状態で立っていた。
「…ちょっと、テンカワ・ルリ大佐がいないんだけど?」
「ええ、一応手紙で伝えるように伝えてあったらしいですが…手紙じゃやっぱり無理ですかね?」
「当たり前よ、手紙なんて見る人がどこにいるっていうの?この時代に。」
手紙を出したのは、カナの補佐をしている参謀のメノウの副官であるミユ大尉であったわけだが
彼女は、軍人の癖に声優までやっており、有名なのはナチュラル・ライチのライチ役だったりする(微笑)
おっちょこちょいなのだが、同時にちょっと怖いところのある彼女が手紙で〜すよねぇ?とメノウに言えば
メノウはそうするしか道などない。
つくづく自分は不幸な人間だと、メノウはそのため思っているが。
「でも、あのルリさんですし。大丈夫かと思ったりして…」
「いくら妖精でも、手紙まで見れるはずないじゃないの。いったい、なんで手紙にしたのよ?」
「ミユ大尉がそれでいいですよねと、前に私の部下のヤナザワ少佐が同じようにそういわれて
拒否したときに、徹底的に殺されていたもので…文句は言えませんよね?」
「南央美って手広くやっているわね…」
「はい?」
「いえ、なんでも無いわ。でも、しまじろうや十円安は…」
「なに、言っているんですか?」
メノウではない声が、そこに響いた。
新地球連合宇宙軍第四艦隊所属機動戦艦ナデシコC艦長テンカワ・ルリ大佐がカナとメノウの後ろ
にいつの間にか立っていた。
「ああ、テンカワ・ルリさんですね。私は地球連合統合参謀本部大佐メノウ・コンドュールです。
こちらは…」
「私は、地球連合統合参謀本部准将のサツキ・カナよ。まあ、ナデシコC級戦艦の選定ね。
連合軍の時期主力戦艦に、ネルガル・マーベリック社のユーチャリス・プランを採用するか、アスカ・インダストリーの
ダイアンサス・プランを使うか…」
カナはいくつかある偽名を一つを使って話を始めた。
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新地球連合の時期主力戦艦の選定も、また彼女のいる組織に一任されているのも事実だ。
ネルガル・マーベリックグループの提唱する次世代ナデシコフリート構想、別名ユーチャリス・プラン
また、ネルガルと極東ナンバーワンを争い、クリムゾンの没落と共に新反ネルガル同盟を結成した
アスカ・インダストリーの提唱した次世代新構想艦隊プラン、別名ダイアンサス・プランの二つに分けられる。
この二つのプランは似たところもあるが大きく違うプランとされる。
新地球連合統合平和維持軍の失態から、統合軍を宇宙軍に合併させると言う異例の事態を迎えようとしている
新地球連合は、艦隊の完全統一を図るべく、次世代艦隊構想をたたき出したのだ。
これは、火星の後継者に加担していたクリムゾン・グループの戦艦では安心できないことと、ナデシコという
他の戦艦と一線の覆す戦艦を主力戦艦にしたいという軍上層部の意見を受けたもので、この構想は決定されれば
向こう数十年は、そのプランから波形された新戦艦等の発注も決まるとあって、ネルガルもアスカも競っている。
ネルガルの推奨するユーチャリス・プランは、2200年にナデシコBのワンマンオペレーションを更に発展させた
ナデシコフリートを採用する上で、その補助的な役割を担わせるために建造されたユーチャリス級サポート戦艦がモデルになっている。
もっとも、このユーチャリス級サポート戦艦が大幅に改良され、テロリストに使われたのは伏せられているが。
性能優先で単艦あたりの価格は高いが、コンパクトでハイスペック、更にはエステバリスの技術を元に
ユーチャリス・プランの艦艇は基本ユニットに各種対応ユニットを装備することであらゆる戦闘に対応できるように設計されている。
これは、各局地における戦闘のために特別に戦艦を作らなくても現用の戦艦に専用のユニットさえつければ対応できると言う意味で経済的でもあった。
更には、ワンマンオペレーションの技術を応用し、150名以下の人数でも戦艦クラスの運用が可能になった。
また、小型化に伴い、大艦巨砲主義論を捨てて、小型だが中口径サイズの多連散グラビティ・ブラストを多用しているのも特徴であった。
ナデシコCは、このユーチャリス・プランのプロトタイプとも言われ、Yユニットの装備が元々可能なように設計されている
(ナデシコAは、A艦にあうようにYユニットが作られていた)
中口径三連グラビティ・ブラストを一つだけ搭載し、相転移エンジンは二基だけだが、出力は世界のどの相転移エンジンよりも高い自信がある
とネルガル技術陣が言うほどのものである。
(三連グラビティ・ブラストは大口径単装にすることも可能)
現在、その選定を行うことになっている情報軍の司令は親ネルガル派ということもあって、ネルガルが形勢は有利である。
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「テンカワ・ルリ大佐…いえ、ルリちゃんと呼ばせてもらうわね。」
「どうぞ、マキビ・カナさん?」
言っていないはずの名前言われ、メノウは驚いている様子だったがカナは何も驚いていないまま
メノウが渡したナデシコCのスペックに釘付けになっていた。
「あら、メノウもうちのメインコンピュータが何度かハッキングされている事実は知っているでしょう?
まあ、たぶんと思っていたけど…真実を知るものというのは得てして裏の顔はわからないわね。」
「私も驚きました。いきなり、あなたが来るとは…統合情報軍の司令が私になんのようですか?」
「うん、それは言いたいけど、まずはナデシコCを見せていただけいてよろしいかしら?
私も表の仕事をすべて片付けてから話はボチボチ始めておきたいと思うし。
ユーチャリス・プランを押すにしても、政府の財務方面はダイアンサス・プランを押すでしょうし…安いもの、ダイアンサス・プランの方が。」
そう、アスカ・インダストリーのダイアンサス・プランは徹底的にコスト、コスト・パフォーマンスを抑えた戦艦の構想であった。
クリムゾン製の流れを汲んで、艦のブロック製造を更に極限までつめることでコストダウンに成功していた。
戦艦の性能は、現用艦を少し上回る程度で、とてもユーチャリス・プランの戦艦とは比べ物にならないが
一隻あたりの値段、量産性、更には極限まで追及したプロック化によって、被弾した部分もすぐに交換が可能であった。
ただ、ユーチャリス・プランのナデシコクラス戦艦とほぼ同じレベルの主力戦艦の大きさが500メートル
相転移エンジンが4基から6基で、大艦巨砲主義を貫き、大口径グラビティ・ブラストを使うこのプランは人員削減にはほぼ遠いものであった。
「安い、政治家って私、嫌ですね。人の命を何だと思っているのか…」
ルリは小さな声で、こころの中で思ったことを呟く。
確かに、ダイアンサス・プランはユーチャリス・プランより節約が可能かもしれないが、兵士のことを考えていないつくりでもある。
極度にブロック化されたということは、その艦に使われるブロックは完全に正しいものではないことを意味する。
つまり、専用に作られたものではないから、能力は劣るわけだ。
それは、換装という形式を取るユーチャリス・プランにもいえることだが、彼らは基本ブロックは完全建造を貫き通している。
「人間そういうものよ。欲に塗れているもの。案内、お願いできるかしら、ルリ大佐?」
「私でよければ、それとマキビということは…」
「あら、そっちの方は知らなかった?そう、私とハーリーは姉弟よ。弟がお世話になっています。
ただ、あえて言えば、この前テンカワ・ユリカさんと話したことがあるんだけど、テンカワ・アキトとハーリーのどっちが本命な訳?」
ドキッ!
そんな音がしたかとルリが思うぐらい、直訳的な質問であった。
ルリが迷っているのは確かに、自分が好きなのがアキトなのかハーリーなのかであることは確かだった。
アキトもハーリーも好きだなんて虫のいい話を続けようとは思っていない。
ただ……
と、ルリは重い口を開き話し始めた。
「……テーゼとアンチテーゼって知っています?カナさん?」
「その理論なりなんなりを肯定するのがテーゼ、否定するのがアンチテーゼね。」
ルリのいきなりの質問に虚を突付かれたかと思いきや、カナは淡々と意味を口にする。
それを見て、ルリは話を続けた。
「その話、両方にテーゼとアンチテーゼがあるんです。私でも複雑すぎて考えるのが嫌になるぐらい。
アキトさんが好きというテーゼがあれば、それは嘘だと言うアンチテーゼもある。ハーリー君が好きというテーゼもあれば
そんなことはないというアンチテーゼもある。」
そう、ルリは確かにハーリーのことが好きだ。
自分のことをハーリーが好きだということはだいぶ前から知っていた、それだけなら自分の弟として思っていられるはずだった。
だが、自分の好きだと思っていたアキトを探していたとき、彼は手伝わないどころか寝る間も惜しんで手伝ってくれたのだ。
それは、ルリはとても苦しいことを知っていた。
それは、かつて自分が好きだったアキトを彼のためにあえて、自分から飽きらめようとしていたときとそっくりだったから…
そして、何時からか、ハーリーをいままで以上に親しみのある、ある意味で好きといえる存在になっていたのも事実だ。
だが、それはあまりにも冷静なルリの一面が阻んだ。
単にアキトはユリカの元に行ってしまって、かつてのアキトのように見えるハーリーに惹かれただけではないかと言う。
それならば、それは自分はハーリーという人間に自分が思っているアキトを重ねているだけになる。
相手に失礼だ、嫌な女というアンチテーゼが彼女を阻んだ。
アキトは逆だ。本当にきっと好きなのだろう。
だが、彼にはユリカという既に結婚した相手もいる。更には二人は自分を妹として迎え入れてくれた。
そんなユリカに裏切りに近い行動を取るわけにもいかない。
カナがそんなことを聞けば、確実にこういっただろう。
あなたは優しすぎと、他人ことを考えるばかりに自分の感情を抑えすぎ、それはルリにも分かっていた。
だから、あえてカナもメノウの顔も見ずにルリはナデシコの案内を始めた。
「数学的に言わせて貰えば…」
ルリが案内を始めて、ナデシコCに乗り込むと同時にカナは再び話を始めた。聞いているかはあえて問わずに。
「テーゼとアンチテーゼは、アンチテーゼにその力が上というのが一般的ね。
ある理論を証明するにテーゼはすべてあわないといけないけど、否定するのは一つでもアンチテーゼがあれば可能だから。
もっとも、それは完全なものにしたい人がするもので、大半はその自分の思いに素直になるものね。テーゼ、アンチテーゼ関係なくね。
相当のアンチテーゼなのかしら?まあ、とにかくテーゼをアンチテーゼで否定するよりはいいと思うわ。
それこそ恋と殺意は裏返しっていうほど、思いつめた恋は怖いからね。
ただ、私に言わせて貰えば、ハーリーが傷つくのではないかと考えるぐらいなら、ハーリーにその気持ちいってあげてほしいものだわ。
ハーリーが弱い人間ではないわ。最低でも精神的に参っている人を見て、中傷的な言葉をかけて自分を誤魔化す子ではない。
だいたい、人は不完全で、どこかにアンチテーゼを持っているものだから…ハーリーも、私もね。」
完全な愛、完全な結婚、夫婦など存在しないのよ。それはあなたも知っているのではなくって?
そういうと、メノウから渡された書類とナデシコの廊下を見るだけでカナはしゃべらなくなった。
マキビ家は相当な広さを持っていた。
さすがに、豪邸であるが、無駄なお金は使いたくないマキビ家の長であるハーリーの父、マキビ・シキ局長は
これでも節約した方だというぐらいだ。
無駄に高級な壺などは置かず、ただ必要なものだけが用意されているだけだ。
いまは、ハーリーがその玄関前にあった必要なもの入れから、適当に胃腸の薬を取り出す
(なんでこんなものがあるんだろう。マキビ家って by作者)
ストレス性か、はたまた何かの要因か…いや、やっぱりストレス性だよね…と思いつつ一気に飲む。
どうも体調の優れないハーリーだったが、まずはそれで抑えて話を始めた。
「へぇ〜〜、それじゃあ、この前話したミホさんってハーリー君の姉さんだったんだぁ〜〜」
ドンンッッ!!
な、なぜいきなり姉の正体がばれている?!
いきなり、まさかヒスイ辺りがばらしてしまったのかと思うハーリーは全速力でそのユリカの待つ部屋に入る、と…
「ね、姉さんの部屋……」
姉、カナの部屋のものは大半が連合軍本部に移ったはずだが、一部はしっかりと残っていた。
姉の持つ私物が多すぎるのもその原因の一つなのだが…
で、多数の写真たての中にはハーリーとカナが並んで取った遊園地での写真もあり(もっともハーリーが笑っていなのはご愛嬌である)
まあ見れば誰だって姉弟だと分かるものが多数置いてあった。
ああ、姉さんが強度のブラコンだったことを頭に入れ忘れていた…
このごろ、姉のことで悩むから胃を悪くしたのかな、などと思ってしまったハーリーだった。
「ばれてしまいましたね、ハリさん。隠していたのでしょう?まあ、知られたくないですよね、ブラコンの姉がいるだなんて。」
「なら、ここに案内するのぐらいやめてくれればいいじゃないですか、ヒスイさん…
というか、ブラコンといわれるだけ自分が悲しくなりますから…」
「すみません。ハリさん。客室の方は、今はスーパーコンピュータとか入れていますから。地下の方に。
シキさまが、新しい養子をいくらか纏めてとるつもりで、家でマシンチャイルドの教育できるようにと…」
まったく、姉の餌食になる人を増やすつもりらしい。
男女関係無しの姉なら、十分にいい獲物であろうと思うハーリーだった。
一方、ラピスは持っている写真の一つをずっと見続けていた。
「うん?どうかしたの、ラピスちゃん?」
「ああ、ユリカ姉さん、これ……私?」
その写真には、桃色の髪をした五歳前後の少女が楽しそうに積み木を持っている写真が映っていた。
「そちらは、シキさまのアルバムのはずですが…ラピスさんが映っていたのですか?」
「…これ、覚えている…ほんの少しだったけど、こうやって遊んでいたころがあった気がする…」
「それって、ユリカさん、何時のころの写真か分かりますか?」
小型の折りたたみ式パソコンを取り出して、ハーリーはパスワードを入力するとユリカのそう尋ねた。
これは、姉にマシンチャイルド研究のことについて調べてもらっていたことの大半が入っている。
今日貰ったデータは入っていないが、それでなくてもだいたいは分かるはずだ。
「えっとねぇ…2194年の6月だよぉ?でも、そんなこと調べてどうするの?」
「ちょっと待ってくださいね…あ、出ました。ラピスさんが生まれたところは第七インスティテュートだから…
その二日前、事件でその研究所で騒ぎがあって、少しの間だけ他の研究所にマシンチャイルドを退避させたみたいです。
その時、父さんの研究所にきたのではないでしょうか?あくまでも僕の仮説ですけど。」
「としたら、そんな数日だけ来た子の写真までシキさまは保管していらっしゃったということですか?」
「あの父さんですからね…姉がシスコンなら父はロリコンといったら失礼だと思うけど、小さい子には目が無い夫婦ですから。
でも、写真に取ったということは…あ、やっぱり。父さん、ラピスさんの返却に徹底抗戦したみたいです。
最後には、ネルガル会長権限で戻されていますが、もし返されていなかったら僕とラピスさん、一緒にいたかもしれませんね。」
「へぇ…そういえば、ハーリー君、そのコンピュータはなんなの?」
どうやら、ユリカはラピスのことも知りたいようではあったが 、それ以前にそのコンピュータの方に興味が移っていた。
映っている中には、ルリやハーリーも含まれ、その大半には死亡と出ていたからかもしれないが。
「これですか?マシンチャイルドの全データの入ったパソコンです。言えばマシンチャイルド大百科事典みたいなものです。
大戦から色々な面でマシンチャイルド関係は騒ぎが多いですから、こういったデータを作っておく必要もあるんです。」
大戦時、正確には木連大戦ともトカゲ戦争とも呼ばれる戦争で、マシンチャイルドは初めて
『戦争のため』に使用され、各方面で大きな成果を得た。
ホシノ・ルリをはじめ、二番艦コスモス、三番艦カキツバタを始め、ネルガルが当時保有していたマシンチャイルドは
総勢十数名にも及び、彼らは戦後平和に過ごしたものもいれば、軍、ネルガルに残ったものもいる。
ユリカも、現在の連合宇宙軍にはルリやハーリー以外にもマシンチャイルドがいることは知っているし
戦後、マシンチャイルドに対して新地球連合総会で話されたことも知っていた。
別にバカで天真爛漫なだけの女性ではテンカワ・ユリカはない。
政治やそういった国際関係はしっかりと調べている、ある意味そつのない人間なのだ。
だが、ルリのことで人よりもマシンチャイルドへの興味…といえばおかしいが、それがあったユリカですらこれだけのマシンチャイルドが
しかも大半が『死亡』になっている事実には驚いた。
「マシンチャイルドの成功率は一割にも満たないのが現状です。男性に限って言えば僕ぐらいなものですから。」
マシンチャイルドは、大半が女性…しかも美人の分類に入る者が多い。
それは、ある意味では他人への配慮と言う意味で人間関係を円滑にするときに印象と言うものを大切にするべきだという
表向きの内容から、美人の方が作り出した人の欲望を満たされやすい。
人間、そういうもので廃棄扱いされたマシンチャイルドの三割はそういった理由で極秘にされたとされている。
だが、そういった理由以外にも技術的な面で、男性のマシンチャイルドは作られなかった。
その事実は、ラピスも知っていた。男性マシンチャイルドは規定外なのだ。マシンチャイルドという枠での。
「とにかく、まずはテレビをつけましょうか。ハリさん。」
場の空気が重くなったことを悟ったヒスイは、そう提案するとそのまま自分でテレビのスイッチをいれる。
もろちん、この時代はすべてウインドウテレビであるが。
『では、4時のニュースです。新地球連合は定例総会を開き、マシンチャイルド保護法及び
次期統合戦略組織改編法について論議しました。では、総会の映像をどうぞ。』
新地球連合総会議場
第一総会議室
白熱した論議であった。
地球連合はよく腐敗していると言われるが、この新地球連合総会はかつての新地球連合総会とは違った。
クリムゾングループ関係がほぼすべて落ち目となり、議会への影響力がなくなったため
各国の政治家も比較的まともな政治家たちが集まっている。
というか、今までのまるで某極東の大国といわれる国の政治家みたいな人など滅多にいない。
「マシンチャイルド保護法可決に関して、イリアス・ミスティオール アメリカ合衆国代表、現地球連合大統領からどうぞ。」
今年の議長国、日本の代表議長がそういうと、かつて旧地球連合最後の才女と呼ばれ、新地球連合で
再びこの会議に返り咲いた女性、イリアス・ミスティオール代表は総会の場で演説を始めた。
銀色の髪に青色の瞳をした才女は、ゆっくりとウインドウ通信を開く。
「マシンチャイルド保護法、並びに次期統合戦略組織改編法の設立、まずはありがとうございます。
特に新地球連合の約九割の支持をマシンチャイルド保護法は得られたことに私は喜んでいます。」
ヒサゴプランから、新地球連合上層部がクリムゾングループの傀儡に過ぎなかったと知ると、親クリムゾン派は一気に勢力を失い
それ以外の派閥が、現在の新地球連合の代表だ。
だが、彼らがいなくなったことは、新地球連合そのものの世界への影響力は低下させてしまった。
そのため、時の連合は再び彼女を呼び戻し、任期を限定して連合大統領に任命した。
「私も後少しで任期ですが、次期統合戦略組織改編法を設立させた後、最後の法案の提出をしたいと思っています。」
その発言で総会全体が騒ぎ始めた。
そもそもごり押しの近い法案可決だったのだ。その次期統合戦略組織改編法も。
論議がされた当初、日和見主義者や比較的保守派ばかりが集まってしまったため、会議は進まず連合大統領の権限で
強引に総会に持ち込み、多数決で可決させたのだ。
もっとも、宇宙軍と統合軍という宇宙に存在する軍が二つと言う問題の解決は求められており、ただしい判断とする
人間も多い。だからこそ、強引であったのにもかかわらず多数決で可決されたのだ。
しかし裏では、宗教界、宗主国に影響力を持つ彼女の家系、ミスティオール家の力だと批判するも少なくない。
アリス・ミスティオールの影響力が地球連合設立に関わり、宗教界がその当時、彼女を聖母マリアの再来と言ってしまったため
その後、ミスティオール家の影響力は高まっていたのだ。
そして、政治的能力の強い彼女が世界に出てからはその影響力を持って連合統一に躍起になっていた。
この世界は、経済的に三つのブロックに分けられる。
ユーラシアブロックと言われる、アジアを中心とし、ヨーロッパを除くユーラシアすべての国のブロック
南北アメリカ・ヨーロッパブロックと言われる、アメリカを中心としてヨーロッパなどの国も含めたブロック
そして、最後にアフリカ・オーストラリアブロックと言われる、それらの国々のブロック
彼女は、その三つに分散する大型企業、ユーラシアのネルガルとアメリカのマーベリックグループを合併させることで
ユーラシア・アメリカブロックといわれる一大ブロックを作り、経済的に地球統一をさせようとしていた。
ネルガルとマーベリックグループの合併も、また世界統一のための行動の一つであったわけである。
これは、アフリカ・オーストラリアブロックなどからの大きな反発を受けているが
彼女はやめる気などまったくないまま、新たな法案を次々と提出していた。
議会は、彼女がマシンチャイルド保護法、彼女の血筋…アリスの複製プロジェクトである
アリス・プロジェクトの完全停止と、現存するマシンチャイルドの保護政策であった、それを可決させれば
任期もあって、彼女も落ち着くだろうと予想していただけに、想定外の言葉に戸惑いを隠せなかったわけだ。
「現在、この新地球連合は連合加盟国である地球のほぼすべての国と木星連合を含め設立されています。
ですが、火星の後継者と呼ばれるテロ組織の反乱の後、連合の権威は落ち、各国国民からは不満の声が相次ぎました。
哀しいことですが、私の曽祖父であるアリス・ミスティオールが光の妖精と呼ばれたためか
ホシノ・ルリを電子の妖精と呼んだためか、世界レベルで彼女を祭り上げました。地球連合としては個人に権威が奪われてしまったという
最悪の事態だったといえます。」
その後、ホシノ・ルリの個人的な戦艦使用(テンカワ・アキト捕獲作戦)によって、その人気は衰えたが
一個人に世界の権威を奪われた新地球連合は世界統一という奇麗事からはずされてしまった。
「私が大統領となった後、世界は落ち着きを何とか取り戻しましたが、新地球連合の権威は薄れました。
そして、今なお火星の後継者はテロ活動を続け、われら新地球連合への降伏をせずに徹底抗戦をしております。
こんなことがあってよろしいのでしょうか?地球連合は地球圏すべての人類の中心となり、世界平和に貢献するために
設立された機関だったのではなかったのでしょうか?」
それは建前に過ぎない。
議会の大半はそう分かっていたし、またイリアスもそんなことは分かっていた。だが、あえて建前を話した。
だが、議会の驚きはこれからであった。
「新地球連合の改編……組織の大幅な改編がなければ、この体質は変わらないと私は思っております。
戦争終結からわずか数年でこのような事態が起きてしまったのは、連合の行政そのものにあります。
そこで、私はこの新地球連合の大幅な組織改編、連合の更なる大ボソンジャンプ時代到来に伴い
新地球連合を地球統一共同連合へと発展拡大を目指し新地球連合統合再編成法案を通したいと思います。」
その発言に、一瞬、すべての声が会議場からなくなった。
聞こえるのは微かな息継ぎの音のみで、騒然となった。
「ここに、連合の再編成改編法案の提出を私はすることを宣言いたしますッ!」
そう宣言すると、イリアス大統領は法案すべてをメディアを通じて全世界へと送信し
同時に、総会議場から退室していった。
「ふざけるなッ!大統領っ!」
「何を言う、当然の判断だッ!この腐っている連合再編には必要不可欠だッ!」
「ナポレオンにでもなるつもりか、大統領っ!」
退出同時に、そんな声から次々と各国代表は賛成反対を色濃くそれぞれ主張し、議会は混乱。
議長権限で機会は閉幕。その法案に関しては、専門会議がもたれることとなった。
だが、人々は大統領をよく見ようとはしなかっただろう。
よく見れば、それがピースランド王家と同じエンブレム、アリス・エンブレムをつけていると気づいていただろうから……
後書き
小説だけにとどまらないで、今回、レンタルビデオ店から劇ナデを借りて見直しました。
もうすぐ、ファンのために十周年記念の全十巻のDVDセットが出るらしいですけど、私はお金がなくて買えません〜〜
にしても、劇ナデのルリと二次創作でよく出てくるルリって別物で、二次創作のは参考にできないな、とつくづく思う今日この頃です。
TV版のルリとは思えないほどの感情が入っているのはアキトとの話ぐらいのもので
後はごく平坦な言葉である劇ナデルリルリって、一番誠実なルリじゃないかなと思います。
ほら、二次創作物のルリって殆ど産業廃棄物並みの慎重さがないと殺されそうで…
いわゆる壊れルリのタイプは私は苦手なので、この小説でそれを楽しみにしている方はすいません。
それは短編でのノリで書くことはありますが、長編は無理です。
で、今とにかく央美(おみ)さんのことを調べているんですね。南央美さんのことです。
(ルリルりの声優、ちなみにゲキ・ガンガーの国分寺ナナコとナチュラル・ライチのライチ役も兼任しています…
つまりは、ルリルりの里めぐりのときの予告は一人二役で央美さんだけでやっていたわけですね。よくやる人です。)
以外と多彩な能力の持ち主で、男の子もしっかりと多数やっていますね。南央美さん。
それだけだと日高さん(ハーリー君の声優)や艦長こと桑島法子さんも凄いと思いますけど。
あの伝説の野球アニメのヒロインだけでなく、犬夜叉の桔梗さん。桑島さんはあらゆるアニメで出ている気がしますね。
というわけで、なぜか声優ネタが多数入っています。
で、改定前と話を大幅に変えることを決意しました。ここまでなら内容だけ変えることも可能ですからね
改定前の話と代わるので気にせず読んでください。後、ご意見とかいただくと嬉しいです。
ただし、チェーンメールは勘弁してください(笑)
ちなみに、私的には皆さんの思うハーリー君って知りたいんです。
私だとハーリー君大好きで正常な判断ができそうもないです(注意 私は男ですよ?変な趣味などありませんからね)
このごろ、ウェブページを見る余裕もないので、メールで送っていただけると嬉しいです。確認と返信が容易ですから。
ああ、でも、一応できる限り診てみますので、無理ならば掲示板でも良いです(笑)
さて、ミスティオール家とピースランド王家の関係、ルリルリも含めて混迷深まる地球連合。
そして、火星の後継者が動き出すとき、すべては誰も待たずに進みます。
次回『ミスティオール家とピースランド王家』をお楽しみにしていてください
(友人にこの部分を『題名でも、次回のシナリオって分かるものだから止めておけと言われましたが、そのままです。)