2201年11月

時は少しばかり戻り、2201年11月にまで遡る。

地球連合政府の意思とは別に、ナデシコCが、いや、ホシノ・ルリ当時少佐が

連続コロニー爆破犯のテンカワ・アキトの逮捕と言う名の保護をしようとしていたころの話。

 

 

地球連合政府直属

特務諜報機関『フェアリー・カーディアンズ(妖精の守り人たち)』本部

 

「ええ、分かっているわ。イリアス、連合軍にもこちらで干渉しているから。」


連合の特務機関『フェアリー・ガーディアンズ』の本部、しかも司令室で彼女、マキビ・カナは次々と書類を…

何時の時代でも紙の媒体である関係書類を処理していきながらウインドウの前に出ている女性

後に連合大統領となるイリアス・ミスティオールと話をしていた。


『それならいいけど…ホシノ・ルリの行動にも色々と問題ありよ。あなたがハーリー君経由で

話を聞けなかったら、彼女を連合の敵にしようと勢力の弱まったクリムゾン派閥の連中が行動を起こす可能性もあったから。

こちらから、政界と経済界には圧力をかけてことを大げさにさせないようにするから頼みましたよ。軍令部は。』


「ええ、ミスティオール本家としても、ミスティオール家と実質上血筋的にアリスと同じピースランド王家としても、彼女が死ぬのはまずいわ。」


『私は結婚するかもわからないし、ピースランド王家はあまり優秀な人材が生まれていない

唯一の例外はルリちゃんだけど、彼女が死ねば…血筋は絶望的ね。後は親族ぐらいしか残っていないもの。』


繁栄時のミスティオール家は地球連合のほぼすべてを支柱にすることすら可能であった。

だが、いくら優秀であったアリスの血筋を継ぐものでも、有能な人間ばかりではない。

ミスティオール家と、アリスとの結婚した相手の子供は本家のミスティオール家に二人が残り

後にピースランド王国と言われる企業を立ち上げた男性が三人目であったため、ミスティオール家と

ピースランド王家は直属の血筋だ。


しかし、女性の生まれる確率が高かったミスティオール家の血筋は薄れ、ついには最後の直系であった

イリアスの父、ローングロム・ミスティオールは子供が女の子しか生まれないまま昨年死去してしまった。

 

彼らは、少し違えども王家といって良い一族だ。アリスという世界に名を轟かせた人間の血筋は

大半が有能であり、確かに一部に例外はいたが殆どが世界経済・世界政治に大きな貢献をしていた。


そんな彼らにとってアリス一族の血は、その有能さを維持するためのものでもあった。


「地球圏に平和をもたらしたアリスがテロで死んだかのように、ルリちゃんはテロで亡くなってもらったら困るってことかしら?」


『そうなるわ。ミスティオール家…いえ、アリスの血筋は絶対になくしてはいらない。

そのためには、私は何でも利用するの。アリス・ミスティオールが何者であるかはこの際どうでも良い話ね。』


「あら、私が調べていたことは分かっているわ。深追いはするなってこと?ハーリーの頼みだからそれは断れないのよ。」


『そういうことじゃないわ。血のためならクローン体だって作るのが流儀ってことよ。

とくに先代のミスティオール家頭首、父の行動は強引だった。いくら、有能な跡継ぎが欲しいからって

止めていたアリス・プロジェクトまで解禁し、更には禁断のクリスタル・プロジェクトにまで手を伸ばしたもの。』


「でも、どちらにしても私たちにはルリちゃんもハーリーもこの世界に必要不可欠な人間というのは事実なのよ。

特に、ホシノ・ルリに至っては……………………ね。」


 

 

 

 

 

 


 

 

新たなるナデシコ物語

第3話 ミスティオール家とピースランド王家

 

 

ナデシコという戦艦は私にとっての揺りかご…

ナデシコと共に成長した私は他の誰よりもこの艦に愛着があった。

C艦となった今でも変わらない思い出。

カナさんが…連合情報軍の司令でハーリー君の姉が入ってきて、思わずそう心の中で感じたことはそれでした。


「さすがは、天下のナデシコね。建造に無駄がありすぎ。最低でも戦艦っていうより豪華客船ね。」


もっとも、こんな風に人の戦艦に文句をつけられれば…ですが。


「ネルガルがナデシコを建造するに当たって、クルーの衣食住の完備は大切な要因でしたから。

ナデシコ級はそれを受け継いでいます。」


「まあ、人員そのものが大幅に減らせるユーチャリス・プランなら別に他の使っても空間はあまると…

さすがは、ネルガルのコンパクト技術。ナデシコCほどの戦艦をアスカが作ればざっと大きさだけで二倍ぐらいになるでしょうね。」


「ネルガルはハードよりもソフトに力を入れますから、制御装置のソフト製造は比較的容易なのでしょう。」


どうやら、実際に選定しているのはお供のメノウさんのようです。

見れば分かりますけど、書類の山持って歩いていますし…さすがに悪いので、私も少し持っていますが。


「にしても、個人用の部屋が多数あるのも、さすがね。さすがは元々民間企業の船。兵士の士気等には配慮されているわけか…

ワンマンオペレーションプランの結論がこの艦だったわね。正直なところ、ワンマンオペレーションできる?」


ワンマンオペレーションプラン…

私がナデシコBに乗った建前上の理由だったプラン、本当はただユリカさんやアキトさんのことを忘れたかっただけで

乗ったその戦艦で考えられていたプランだった、それは一人で戦艦動かせますか、と言えば確かにそうですね。


「動かせることは可能です。ですが…ダメコン等がまったく考えられていませんから、無人艦にした方が

良いと個人的には思っていますね。」


「ダメコンができないと言うと相当な問題ね。緊急時に何もできないまま爆沈するんじゃ無駄だもの。

まあ、そう考えると100人から150人を理想とするユーチャリス・プランは十分かな。」


ワンマンオペレーションプランの欠点、それは平時ではまだしも戦時ではダメコンができないということは=で戦艦

の死を意味すること。それは紛れもない事実なんですけど。

平和ボケというば聞こえは悪いけど、まあそういうことなんでしょう。


「ダイアンサス・プランよりやっぱりよいですね。この戦艦。中枢コンピュータだなんて人格すら…」


「オモイカネです。ナデシコの中枢コンピュータは。

そんなにナデシコの文句を言うなら、案内しませんよ?」


「だって、ルリちゃん、いきなりオモイカネですって言うとこちらまで驚いちゃうわ。

そうそう、この前、プロスペクターと予算関係の打ち合わせした時、ナデシコって通常の戦艦と比べて異質な形よねって聞いたのよ。

そうしたらなんていったと思う?」


ナデシコは確かに奇抜な形です。C艦はブレード、三つになりましたし。

でも、プロスペクターさん、何を言ったのでしょうか?


「『毎回、皆さんそう言います。A艦の話なのですが、テンカワさんはともかく大概のクルーはこの形に

大なり小なり文句を言いましてな。まあ、一番厳しかったのは『変な形』の一言で終わらさせられたときでしたなぁ。』

って言っていたわ。まあ、私も同意だけど、そんなに率直に私は言わないわね。で、案内続けてもらえるのかしら?」


うっ…そ、それは…


 

ルリの回想

2196年10月某日

 

「どうですか、ルリさん。これが我がネルガル重工の誇る最新鋭新造戦艦ナデシコですっ!!」


その日、プロスペクターさんが見せたナデシコは、当時の私が冷静に判断すれば

変わった形の船でした。そして、当時の私なら、相手のことを考えてはいても遠回しにいう人間ではありませんでした。

ま、まあ、つまり…


「どうですか、初めてみるこのナデシコは?」


「……変な形。」


 


 

い、今思い出すだけでも、しっかりと覚えているのですから、私にとってナデシコの記憶は大切だったんですね。

今のは、あまり嬉しくない記憶ですが…


「分かりました…案内を続けます。それで、次はどこを見たいんですか?」


「うん。もうこんな時間だから、お風呂に入りたいわね。だから大浴場。」


「ナデシコって、大浴場までありましたね…さすがは日系企業。私も日本風呂は嫌いではありませんけど。

カナさま、お風呂になんて入るって何も持ってきていませんよ?」


よく考えれば、クルーの七割は日本国籍らしいナデシコAですが、お風呂はぜんぶ日本風呂だったような気がします。

私も、全員の顔と名前を覚えているわけではないですから、よくは知りませんけど。


でも、お風呂を見てみたい、いえ言った内容からお風呂に入りたいでしょうね……手にタオル持っているところを見ると

もともとお風呂のために来たんじゃないかと思うのは私だけでしょうか?


「お風呂ですか?でも、停泊中でお風呂の用意は…」


『ルリ。なぜかハーリーが帰る前に女性用のお風呂にだけぜんぶお湯を入れるようにプログラムしていたみたいだよ。

多分、居残り組の大半が女性だから配慮してあったみたい。お湯もぜんぶ裏経費で隠されているし。』


水は、宇宙空間では大切ですから、基本的に高価な管理プログラムで管理されています。

ですが、地球にいるときはありふれたもので、海水からすぐに真水を取り出せます。たぶん、海から取り出したのでしょう。

気が利きます。ハーリー君は。


「大丈夫よ。そのためにお風呂用のセットも持ってきたし。二ヶ月前にハーリーのところに浴衣以下のセットも贈ったわ。」


「ハーリーって女の子っぽいわ♪、なんて言って女装させるための浴衣だったのではないのですか、カナさま(怒)」


「美男子よ。美男子。女の子っぽいけど。それにそもそも私の浴衣よ。私が使って問題ないわ。

と言うことで行く前にハーリーの部屋に寄らせてもらっていいかしら?」

 


 

 

テンカワ・ユリカは、じっくりしっくりと料理を眺めていた。

電話でアキトをこの家…マキビ家に呼んで(ユリカさんの家じゃないから呼んでっていうのも不自然ですけどね)

ヒスイに頼んで夕ご飯の料理はアキトに作ってもらうことにしたのだ。

 

そういうところ、他人の説得させる能力はユリカ嬢は相当なものである。

ヒスイはどうしたといえば、代わりにお菓子作りをラピスと始めていた。どうやら、クッキーを焼くらしいが

アキトの強烈な止めでユリカは参加しなかった。

なんで、アキト、私のクッキー食べたくないのかな?とは思ったが、ユリカしなくていい、その気持ちだけでいいから

というアキトの言葉を聞いてしまえば、そのまで無理矢理やろうとは思わなかった。


まあ、後でこっそりやればいいよね、なとど思っていたのかもしれないが…


まあ、アキトが止めるのは当然で、昨年、今年の初めだが…のときのバレンタインデーでチョコレートを

ユリカが作ったとき、そのチョコが溶解液らしいものを発していたのだからそんな危惧もわからないでもない(汗)

さすがの黒の王子様も、まさか戦いではなく食事で生死をかける羽目になるとは思っていなかっただろう。

その後の、その当時、まったく料理のできないラピスのジュースで吐き、ルリから送られてきたチョコレートクッキーで

止めが刺されたのだから、確かにここでユリカに作ってもらいたくはない。

ルリがいれば、彼女にも作ってもらいたくないだろうが。


もっとも、ラピス嬢はやればできる派なので、その後アキトの訓練の元、まともなクッキーを作れる程度にはなっている。


だが、ユリカやアキトが驚いていたのはハーリーもアキトの手伝いで料理をしていたことだった。

知らないことだが、育ての親が料理できなく、できるのはヒスイだけというなかでは、やはりヒスイが用事の関係で

できないときのことも考えてヒスイが定期的にハーリーに料理を教えており、今ではヒスイ並み…

一般的な主婦よりも腕が立つほど…にはなっている。いや、ハーリーだったらがんばっても主夫だけど、主婦にも見えなくもないか(笑)


今日のメニューは、ユリカの買ってきた魚を使ってサンマとヒスイがその日やるつもりであった

ちょっとした野菜の炒め物、後は一品プラスでマグロのステーキを追加していた。


「そうそう、ハーリー君。野菜炒めは火加減が大切だからね。」


到底、黒の王子様といわれ、多額の予算を投じて作られたヒサゴプラン・ターミナルコロニー五基を破壊した人間とは思えない。

どこかにいる優しいお兄さんっていうのがせいぜいのところだろう。

わざわざ中華鍋を持ってきたのだから、今ではすっかり前のアキト君に…完全とは言わないものの逆戻りである。

あ、でもしっかりと小型の自動拳銃を持っていて、服も動きやすい服で決めている限り、最低限の警戒は欠かせないようだが。


「は、はいっ!こ、こんな感じでいいですか?」


「うん。いい調子だ。後は感覚さえ分かれば簡単だよ。」


いい兄弟だよね。もしあんな事件が起きなければ、あるいはマシンチャイルドとして連合宇宙軍に入っていた

ハーリー君を私が見つけて、そのまま連れ込んでいてこんな光景が見れたかもしれない。


歴史に『IF』はないが、ユリカはその光景を見てそう思わずに入られなかった。

本当に兄弟みたいな光景だったから。


「ラピスさん、クッキーのコツは自分らしさをどう出すか。よく本に書いてあるものでは本の味しか出ません。

私の場合は特性のタレをクッキーの焼く前に付けますが、実際にはその人のオリジナル的な要素が必要なわけです。」

 

一方、ラピスはという悪戦苦闘しながらお菓子作りをしていた。

ユリカは料理が殲滅的にダメであるし、アキトはこういったお菓子系は深く教えなかった。

彼の知識には、そういった類のものは少なかったのだろう…

ホウメイさんなら、そういった類も多数知っていただろうが、アキトは中華料理人をやりたかったわけで

別にパティシエをしたいわけではなかったためか、殆どホウメイはその関係は教えていなかった。

ただ、ルリちゃんにお菓子を作ってあげなきゃ、というときが時々あり、基本的なものの作り方はマスターしていたわけだ。

(ちなみに、以外とルリルリ甘い物好き?)


「なるほど…オリジナルの要素ですね。私だったら、何かトッピングするのでもよろしいのでしょうか?」


「トッピングする具にもよります。ハリさんの姉のカナさんは、この前金粉なんていれていましたが

そんなもの入れてもまったく美味しくなりませんから、最低でも味的に合うものを選ぶべきです。」


「あ、嫌な思い出が…」


「おい、ハーリー君。どうかしたか?いきなりペースダウンして?」


「ああ、金粉事件ですね。ハリさん。まあ、チョコの半数以上が金粉でしたし。」


ハーリーも同じ年のバレンタインデー、ブラコン主義の姉とヒスイ、メノウの三人、他には以外と可愛いと評判のハーリーは

もちろん義理なのだが、チョコがたくさん入っていた。

姉のチョコ、ゴールド・チョコレート…見るからに危険なチョコを一口食べただけであの世とこの世がくっ付いたと

思ったほどだ。

ヒスイは完全なオリジナル、メノウはといえば市販の超高級品に自分でトッピングしたものをハーリーには渡していた。

ちなみにルリもハーリーに義理でもなければ、本命でもない不思議なそれを渡したわけだが

結果は大して、アキトと変わらなかったらしい。

ただ、彼の名誉のためにいえば、ルリが前にいなくて送られてきたアキトはまだしも

目と鼻の先にルリがいるハーリーの場合、まずいどころか気絶ですら許されなかった。

マジでその厳しい味を『美味しい』と言ったハーリーは、後でサブロウタに『よく頑張った…俺はダメだ…』といったらしい。

ちなみにルリは義理もオリジナルだったため、ナデシコCは一週間ほど機能が半減したらしい(笑)

このときほど、ハーリーはワンマンオペレーションの恩恵を受けたことはないと思うほど。

 

「そうか。君も俺の同志か…毎年、その時期には逃げるのが俺の決まりみたいなものだ。

特にユリカのは…」


「私のがどうかしたの、アキト?」


「い、いやなんでもない。とにかく、完成だ。ハーリー君、持って行ってくれ。」


「あっ、は〜〜い。」


「それじゃあ、ここら辺で一休みね、ラピスちゃん。」


穏やかな光景だ。ルリもいればテンカワ家+ハーリー&ヒスイでいい感じなのだが…

あいにく、ルリはそのころ、大変な目にあっていた。


 


 

 

大浴場だ。

ナデシコ大浴場は、男湯と女湯に分けられているがわけ方が大胆だ。

ディストーション・ブロックにより空間的に分けているのだ。


というのも、オモイカネに監視されているのにもかかわらず、ナデシコA時代ウリバタケ率いる整備班の欲望のこもった思いが

ドリルなり、なんなりでその垣根を吹き飛ばそうとする事件が多発したのだ。

唯一、女の湯の屋根だけはディストーション・ブロックから隔離されているが、男湯には完全にディストーション・ブロックで

完全ブロックされている。ウリバタケ愚かなりである。


ハーリーの部屋で適当に浴衣を取ってから、ナデシコ大浴場の女湯に入ったカナとルリ…

メノウは残った仕事をすべて終わらせてから行くということでブリッジに向かったのだ……二人で湯船に浸かっていた。

 



「ふぅぅぅぅ〜〜〜やっぱり、この大きいお風呂はいいわ。この声が反響がいいわぁぁ〜〜」


「おばさんですね、カナさん。」


うっ、おばさんはないでしょう。まだ20代なのに…なんていう顔で私を見るカナさん。

その感じ、ユリカさんやイネスさんに通じるものがありますね。ユリカさん、遺跡との融合で未だに20代前半期みたいですけど。

でも、このお風呂は私も好きです。えっと…反響するのもです(赤面)

私もおばさんでしょうか?いえ、きっとユリカさんかそんな人の影響受けただけです。


「こうやって広々としたところでのんびりと湯船に浸かっているといい感じね。嫌なこともすべて忘れられるわ。

あなたも、いきなりわけの分からない統合情報軍司令が来て、何者なんだなんて思っているでしょうけど

私も色々と嫌な仕事が多くてね。こうのんびりできることってたまにしかないのよ。分かってちょうだいな。」


「はい。私も本当ならアキトさんやユリカさんのところへ帰る予定でしたから…

でも、こういう大きなお風呂はいつ入っても気持ちいいです。」


人のきらめきはボソンの興亡…新たなる秩序であった火星の後継者…

こうやってお風呂に入ると、なんとなく無茶苦茶な生き方だった気がします…

どうせ死ねばいいと思っていたころ、サブロウタさんのお陰で立ち直ってナデシコBへ…

アマテラス、アキトさんを見てからは本当に無茶苦茶な生き方だった。

のんびり…本当の意味でのんびりとお風呂に入るなんて殆どなかったのかもしれませんね。


「人のきらめきはボソンの興亡、人が光を超えたとき…新たなる秩序のための戦いが始まる…

アリス・ミスティオールの予言書より抜粋、か。ボソンジャンプがボソンの興亡と人が光を超えたときを意味していた…

そして火星の後継者が新たなる秩序を始めた張本人。アリスの予言は当たったというべきか…

それで実際に私が来た理由だっけ?ミスティオール本家からの要望ね。イリアス・ミスティオール大統領からね。」

 

ミスティオール家、地球圏の政治を纏めている連合中央政府の中核と言われる一族、私に要望…ですか。

遅かれ早かれ来るとは思っていましたが…


「地球連合軍を辞めろっていうことですか?」


「まあ、このまま連合軍にいると連合内部でのテンカワ・ルリの影響力が上がる一方で、中央政府としては色々と問題もある

そういった面では確かね。でも、違うわ。ミスティオール家とピースランド王家は血族上の繋がりがあってね

早い話、ピースランド王家で過去に例を見ない才能の持ち主だったルリちゃんをミスティオール本家は欲しがっているっていうわけ。

連合内部もガタガタで、このままだと北と南の対立は避けられないわ。大統領閣下の少々強引な統一政策も相まってね。」


連合は、ネルガル・マーベリック陣営(アスカインダストリーも含まれる)である北半球諸国と

クリムゾン陣営であるところの南半球陣営に分かれているそうです。

過去に私が調べたときにはピースランド王国の血族でしたが、まさか連合最大の派閥ミスティオール派の本家

ミスティオール家とも血族関係だったことを知ったのはついこの間です。

私がもし暗殺者に殺されていて、それがクリムゾン・グループの仕業だったら、確実にクリムゾン・グループ崩壊でしたね…

連合中央政府を敵に回したことになりますし。


「イリアスの場合、ルリちゃんの能力っていうよりも…あれだけど。

ルリちゃんも知っているんでしょう?アリス・プロジェクトのオリジナル・アリスことアリス・ミスティオールの話は?」


「マシンチャイルドが大半途中で廃棄処分されているんです。

普通の人間よりも優秀なのですから生かしておいても良いはずです。

でも殺している事実は何か、ハーリー君がナデシコBに来てから浮かんだ謎ですが、だいたいそんなことだとは思っていましたよ?」


多分、機密保持というのもあったのだと思います。ですが、それを越える何かがあったのは事実だと思いました。

自分が死んでも悲しむ人なんて…思っていたときになぜ自分は生かされていたのかから浮かんだ疑問はナデシコBの

ハッキング能力でだいたい予想できました。マシンチャイルドは完全でなければならない理由があった…そういう事実に。


「ネルガルとミスティオール本家は手を組んでいたのよ。代を重ねることに血筋は薄れていく、アリスから遠くなることは

ミスティオール家が宗教界をも抑えられている理由を消すことになるわ。なら遺伝子操作だなんて本末転倒だけど

そんな事実は隠せばよい、そんな考えで始まったのがアリス・プロジェクト…マシンチャイルド計画の発端ね。

だからマシンチャイルド関連技術はネルガルしか持っていないの。クリムゾン・グループあたりは必死になっているけど

オリジナルのデータを持っていたネルガルは比較的容易に作れたのもそういうわけ。ネルガルは元が何か知っていたから。」


かつて、アカツキさんはマシンチャイルドのことをもの呼ばわりしなかった。一企業で企業人に徹していたアカツキさんが

私のことを人呼ばわりした、といえばヘンですが、その理由としては納得できるものです。

企業はその依頼主がいなければ商売は成り立ちません。依頼主にも企業にも多額の利益となるその話に乗ったのでしょう、ネルガルは。

成功すれば、ミスティオール本家はその天才的な能力を持つ人材で繁栄が続き、彼らと関係を持つ

ネルガルは軍需産業においても、公共事業でも多額の利益が上がる、まあそうな理由があったのだと話を聞けば

だいたいの人は分かります。


「どこまで知っているんですか?それよりも、なんでそんな大統領との関係があるかも知りたいです。

私も電子上で色々と知り合いがいますが、その人の言っていた噂の『フェアリー・ガーディアンズ』とやらですか?」


「機密を漏らした愚か者がうちの組織いたのかしら…まあ、そういうこと。妖精の守護者

まあ、正確に言えばレプリカのアリスたちを匿っているってこと。ミスティオール家としてはマシンチャイルドが全世界に知り渡ってしまった今

マシンチャイルドをアリスに仕立てることはできなくなったからね。

唯一、血族のマシンチャイルドであるルリちゃんに最後の希望を託したかった、強制はできないけど。」


やりたいからこそ、全力で誠意を持って行うものです、例え政治家にせよ、なんにせよ、と言いたいのかな?

それも人それぞれで、お金のためな人もいますが、やりたくない仕事押し付けても全力が出せるはずないというのは的を得ていますね。

まあ、そのイリアスさんも同じ考えとは限らない。カナさんはハーリー君というマシンチャイルドの弟もいるわけですから。


「大統領との関係はね、そうね……」


と、カナさんが黙って考え込んだときでした。

人生で、ある意味最悪に近い事件が起きたのは。


ビッッ!!ビッッ!!

 

非常事態を知らせるアラームがいきなりなり始めました。

いっ、いったい何事でしょうか?最低でも、訓練の予定はなかったはずです。


「なにごとっ!ルリちゃん?!」


「わ、わかりません、いきなり非常警報が…コミュニケもつけていませんし。とにかく、あがった方が…」


『第一級非常事態発生。ブリッジ、相転移エンジンブロックが何者かに占拠されました。繰り返します…』


オモイカネの合成音声です。どうやら、侵入者が入ってナデシコが…占拠された?


「どうやら、お風呂にも来客の足音が聞こえるわ。確か、この屋根、ディストーション・ブロックはかかっていないはずよね?」


私には聞こえませんでしたが、カナさんに分かるのでしょう。

確かに、女湯であるここはディストーション・ブロックはかかっていないはずです。

でも、天井まで約6から7メートルはありますけど…


「こういうときのために、しっかりと情報軍専用の耐水用コミュニケはつけてあるわ。これで…」


と、カナさんがボタンの一つを押すと…そこからなにやら粘着系の液体が壁に張り付きました。

…たぶん、予想ですけど…火薬の一種?


「伏せてちょうだいっ!」


やっ、やっぱりそうですか。とにかく、私はお風呂の中で伏せました。同時にそれほど大きくないにせよ爆発音が響きました。

で、伏せた状態を戻してみると…


「か、壁に穴が…」


「指向性の火薬ですもの。戦艦の隔壁ぐらいは吹き飛ばせるわ。数回しか使えないのがたまに傷だけど。

とにかく、脱出よ。上は換気・及び整備用の通路よね?」


早く言えば、ヒカルさんがナデシコに来たときにいた通路のことです、その通路から逃げようってことでしょうけど…


「あの、私、裸なんですけど…」


「こんな非常時にそんな裸とか何とか小さい細かいことは言わないでちょうだい。今は一刻も早く急ぐべきでしょう?

ほら、急いで。どうやら、衣服室にも侵入者ね。」


今度は私も聞こえる音で、ドタドタドタドタと走ってくる足音です。警報は鳴り続けているでしょうから多分侵入者です。

と、そのコミュニケからワイヤーを出してそこに繋ぎました。

コミュニケの大きさから見て、そんな長さのもの、どうやって出したんだろう?というのは無しですね。

と、カナさんは入り口に何か仕掛けると私を捕まえてワイヤーを引いて上に上がりました。

もちろん、私も一緒に整備通路に産まれたままの状態であがります。


「5、4、3、2、1…爆破と。」


指向性爆弾、しかも今度のは時限装置付きだったみたいですね…が爆発したようです。

とにかく、人生最悪の一日が始まったのでした。

そう、それはあらゆる意味での最悪の一日が…

 

 


 

後書き

第三話ですが、この製作日数はわずか三日だったりします。

勢いで書いたと言うわけです(その間にバレンタインデーがあったわけで、それが微妙に含まれています)


ホシノ・ルリ、マキビ・ハリ、ラピス・ラズリこと瑠璃…三人に共通していることはマシンチャイルドである、

それもそうなのですが、製作サイドの安易な決め方なのか宝石なわけです。

ルリとラピスは同じ瑠璃の鉱石から、ハーリー君の破璃はガラス、と言うのは冗談で(実は破璃にはそういう意味もあるのですが…)

水晶、クリスタルというわけです。瑠璃も破璃も照らせば光るということわざもありますぐらい瑠璃と破璃の関係は深いんです。

 

で、アキト君とユリカ嬢が第二話と第三話それぞれ出てきたわけですが、アキト君はまあ気難しいと本当に難しいですから

私には前と後の中間ぐらいになってもらいました。ユリカ嬢って他人を自分のペースに巻き込むのが得意ですからね。

ラピス嬢はいつもだと、ジャレ馬か逆に大人し過ぎるという両極端だったので今回は普通にさせてもらいました。


それでですね、ナデシコにおいてホシノ・ルリという存在をこの話、書く前に散々考えさせられました。

ルリは本の設定によると(劇場版のパンフレットでは違っていますが、こちらが本当の内容だそうで)

2200年の7月、ルリとタカスギ・サブロウタとの出会い

暗殺者(多分、火星の後継者辺り)に命を狙われたルリを、サブちゃんが助けて、その件を切っ掛け

にして暗くふさぎこんでいたルリは前向きに生きる気持ちを取り戻す事ができた

らしいのですが、とするとその前までは暗くてそれこそ『マシンチャイルドのホシノ・ルリ』だったわけなんでしょう。

ルリはアキトが好きだったのでしょうか?

小説では『淡い恋心』として描かれていましたが、その人を失って復活した(ちょっと表現ヘンですけどね)とくれば、思いは増幅されても

おかしくないと思います。また、ハーリーの件に関してもいえないことではなく、2割程度の勝利率でしょう(アキトの比重って高いですからね)

もっと言えば、本編でルリはハーリーの思いを知っていたと思います。

どんなに特例と入ってもルリは『艦長』なわけで、艦長は部下の心情を察することができなくてはいけなくて

ハーリーの思いに気づいてあげられていないならば、むしろ艦長失格なわけです。

(ナデシコAのユリカの場合、他人の恋はあまり知っていませんでしたが、同じナデシコの仲間として

部下とはいえない仲の友達に近い関係の人間のことを考えていたと思います。というか

そういうオーラを漂わせるのがテンカワ(旧姓ミスマル)・ユリカだと僕は考えています)

逆行もののSSで、ナデシコCなりBなりがランダムジャンプすることがありますが、時々B艦の部下ごとジャンプさせてしまうケースがあります。

でも、結局ルリ様至上主義がナデシコの主流なので、部下よりも先にアキト君とくっつく訳なのですが

艦長失格どころか人間として問題ありですよね、この行動って。気にするのがハーリー君とサブロウタぐらいというのも十分な問題だと思います。

まあ、それなら最初から部下まで巻き込んでアキト君捕まえるな、とでもいいたいですけど…


実を言うところ、見た目と中身が入れ替わっているわけで、逆にテンカワ・ユリカ嬢ならこんな感情に身を任せた行動をしません。

部下のこともしっかり考える彼女は危険な賭けは基本的にしませんから、入念に作戦を練って

確実にアキトが捕まられると予測すれば『アキト待っててね〜〜〜あなたのユリカが今行くから〜〜』とでも言って行動を起こす派です(笑)

一見冷静なルリは逆に感情的な行動を起こしやすく、むしろ部下と言うことを頭から吹っ飛んでアキト君一色なわけです。

以外と場当たり的な感じがルリにはあります(彼女の人生そのものが場当たり的なものでしたからね)

もし、ルリとユリカが二人がかりでアキト君を捕まえようとすれば、高確率でランダムジャンプなんて起きないまま捕まえられる…

そういう過程で、この話ではアキト君もルリルリもユリカ嬢もランダムジャンプをするつもりはなく、むしろ歴史干渉に否定的な考えを持っています。


ナデシココンプリートCD−BOXの一枚で、ルリは過去の場所は自分の場所ではないと言っています。

まず、これだけでルリは過去よりも今を生きようと考えていると思えます(もちろん心情の変化にもよりますが)

ユリカ嬢は、過去なんかよりもむしろ未来でアキト君と一緒にいられるのが良い、過去を変える必要なんてない

私は私、アキトはアキトだから♪みたいな感じがあります。

アキト君は少し難しいですが、ユリカに流される代表みたいなもので、過去を変えようと思って変える人ではないです。

むしろ、事態がそんな事態になっちゃったから、自分が生きるために、せめてこの時代のユリカは…という考えで大半の

逆行もののアキト君は動くわけですね(何、逆行ものの解説始めているんだろうね、僕って)


というわけで、僕は逆行ものは苦手としていて、もちろんこの話も逆行ものには基本的になりませんし

むしろ、そうなれば逆行を否定する行動を取るつもりです。

いえ、逆行や歴史改編が悪いというわけではないんです。そういった話は私も大好きな分類です。

ただ、厳密に言えば逆行物を安易に書く人っていますよね、一話とか二話ぐらいで終わってしまっていて

なんか話が続かないっていうタイプです(実は僕も逆行物書くとこういったタイプに落ち込みます)

こういう人がなぜこうなるかって、逆行してアキト君やルリ嬢が何をしたいのか決まっていないからだと思います。

逆行でそれを忘れている人って以外と多いようで、アキト君やルリ嬢が何をしたいか、ルリ嬢はアキト君の願いのままに

動くとしても、彼女はアキト君じゃないわけですから、彼女なりの思いがある。そういった心情の解釈ができないと話って進まないと思います。


もちろん、私もそれは同じで心情の解釈ができなければ話はできないわけです。

ですから、ある意味でありえない逆行物よりもこういったアナザーてきなものの方が簡単なので書いたわけです。

だからって、心情を考えていないわけではなくて、TV版や劇場版からその人の性格、心情を考えていかないといけないし

もっといえば、シナリオ的に固まりやすい逆行物より、よっぽど内容そのものが難しくなるんですけどね。


作者側として、他人に読んでもらうことを考えるべきなのですが、自分はそれよりも自分の中のホシノ・ルリや

そういった人間を思って書いています。ですから文章的にはヘンだと思いますし、こんな行動取るはずないというのもあります。

そういったところはドンドン指摘して欲しいですし、ドンドン指摘されれば私もドンドン変えていくつもりです。

ですから、そういった指摘をください、皆さま。


ところで、ホシノ・ルリは新造戦艦ナデシコ専用のオペレーターとして『スキャパレリ・ブロジェクト』に組み込まれていたのか

それともいわゆる『ヒューマン・インターフェイス・プロジェクト』に組み込まれていたのか……

どちらにせよ、わずか6歳やそこら辺の時のルリに宇宙戦艦のオペレーターやらせようとしていたわけですから

ある意味で無謀な計画だったでしょうね、このプロジェクト…

手元の資料ではよくわからなかったし、TV版見ても分かりませんし…

どなたかご存知ありませんか?あれば教えてください。話の中に入れたいのですが、どっちかわからないと話しにならないんです。

スキャパレリならスキャパレリなりの話が、ヒューマン…ならそれなりに話を変えようと思っていますから。

今のところは、ヒューマン・インターフェイス・プロジェクト(TV版で一瞬、そういった言葉がでていたような気がするので…)で作る予定ですが。


ということで、感想とか待っています。ヘタだなぁ〜〜〜と思う方、ヘタな箇所とか教えてください(全部って言われれば全部なんでしょうけど…)

ルリはこんなじゃないッ!!という方、私の中はルリはこんななんです。お許しくださいませと最初に断っておきます。

というのも、自覚するほどルリルリ大好きな私ですら、不思議なぐらい、劇場版のルリの冷静な部分ばかり目立ってしまったので。

では、また次回をお楽しみにしていてください。

 

追伸

ちなみに、基本は三人称ですが、一部だけルリ、もしくはハーリーの一人称がこれからも含みますので

その点にはご注意ください。