人は所詮人に過ぎない。

それは、協調することもでき、それは敵対することもできる存在だ。


結局、同じ『人類』であるのにもかかわらず、互いを憎みあえるのは人類ぐらいのもの…

それは、人類の進歩と共にいつも続いてきた汚業だった。


かつて『人類の未来のため』と言い反乱を起こした草壁春樹にせよ、彼には彼の想像していた未来があり

否定することはまだしも、その世界そのものに希望を持つものも、また多数いたのは事実だ。


人類のため、地球のため、木星のため…そして、いつも被害を受けるのは弱者であった。


明日、また明日…世界は永遠と続くと思っていた人は、不意にすべてを奪われた。

大切な家族さえ失った少女が思ったことはいったいなんだったのだろうか?


しかし、それもまた知る者はその少女ぐらいしかいない。人は他人を完全に知ることなどいないのだ。

そして、世界と言うのは時に残酷なもので、そういった人ほど大きな試練が次々と待ち構えているものだ。

 


だが、彼女は一人ではない。到底一人ではどうしようもないことでも共に手伝う仲間がいる。

 

そう、たかが一人の力など微々たるものだ。

一人で全世界を掌握することすら可能な技術、システム掌握技術があったとしても、世界は複雑で一人の力は結局弱い。

 


それこそ、人の気持ち、心と同じなぐらい。

星座の海がもしあるとするならば、狭い、ただ他人と憎むしかない世界に住む我々は、そんな自由な世界にいくことができるのだろうか…

 

 

それは、今の我々には分からない…

 

 

新たなるナデシコ物語

第4話 ナデシコC 占領

 

 

 

 


 

 

世界と言うのは、これでいて非道なものである。

地球と木星との対立であったトカゲ戦争もそれまた事実。

 

当たり前だ。

地球連合政府が木星連合の設立など認められるはずが無い。

事実、火星の光景者騒動から数年経った現在も、地球連合中央政府はクーデター前の木星連合を認めていない。

なぜなら、それは同時に連合の主要国が月の自治区に干渉したことを半ば認めてしまうようなことにもなりかねないからだ。

 

だからと言って、その行動をおかしい、ちゃんと正すべきだと言うものも必ず現れる。

例えば『ナデシコ』はそうであった。

 

だが、こういった世界全体を見たうえでその行動が正しかったかと言えば正しくもあり、また間違えでもある。

たまたまナデシコは運が良かったに過ぎない。

例えば、地球と木連の戦争時に連合内部や月にて独立運動がおきたとすれば…

連合にとっては一大事になりかねない。

それは、同時に、地球連合という統一国家の分裂を意味し、それは独立戦争という名の元に全世界で戦争が始まりかねない側面を持つ。

 

ここにこんな資料がある。

新地球連合トカゲ戦争研究局の報告に寄れば

トカゲ戦争において、もし独立運動がおければ、連合内部の瓦解から

トカゲ戦争が通常に終わった時の数十倍もの戦死者が出たという報告が出るほどだ。

 

結局、良かれと思ってしたことが戦争を拡大し、無意味に戦死者を拡大してしまうこともある…

だからこそ世界の頂点に立つべき人間には『足場の固い未来展望と悪いこととしりつつも全人類のために行う決断力』が必要だと言える。

 

その過程で、ミスティオール家が強大な勢力化したのも、実際に足場の固い未来展望と

どんな非道なことだと知りつつも、全人類のためという名の元に先導を行ってきたからだ。

 

新地球連合中央政府統括FD(フェアリー・ドール)局の捜査官は、そう思いつつ、眼下で行われていく悪行をただ見逃すしかできなかった。

 

 


 

 

 

始まりは、微妙なところからだった。

 

サセボの連合宇宙軍ドックの警備兵が倒れていた…ただ、それだけであった。

 

それがナデシコCメインブリッジに下りてきたのはその15秒後、本当に凄いスピードであったといえよう。

発見からすぐにブリッジに連絡がきたと言って良い。

 


しかし、今回ばかりは相手が悪かった。

進入した中には藁の帽子をした…かつて北辰七人衆と呼ばれるものまで含まれていたのだ。

彼らは、一瞬にしてブリッジまでの通路上にいた警備員をなぎ払うと、ナデシコメインブリッジに到着したのだ。

しかも、マシンチャイルドなら誰もが忌み嫌うものと一緒に。

 


「……ヤマサキ……」

 


ヤマサキ・ヨシオ、確かに連合刑務所に捕まっていたはずの人間が目の前に、北辰の亡霊と火星の後継者の残党と共に

いれば、さすがの彼女…メノウ・コンドュール大佐と言えども茫然とするしかない。

しかも、彼らによってナデシコ艦内は次々と占領されていたのだ。

人質を取られている、いや自らが人質なのだろう…痔が冷静なメノウはそう判断した。

本当ならば、テンカワ・ルリ辺りを人質にしたかったのだろうか、それともメノウがここにいたことに驚いているのか

ヤマサキは不敵な笑みを浮かべて亡霊によって捕まったメノウを眺めていた。

 


「嫌ですねぇ、僕をそんな目で見ないでくださいよ。メノウさん?」

 


「あなたみたいな人間の屑にそんなこと言われる筋合い無いです。」

 


「僕が人間の屑ですか?それなら、僕によって作られた君はそれ以下じゃないんですか?」

 


メノウ、そしてヒスイはヤマサキのマシンチャイルド技術の産物だった。

アリス・プロジェクトの事実を知っていたのか、ヤマサキはマシンチャイルドをクリムゾン側で初めて誕生させた男だった。

ただ、それは完全に主君、つまりはこの場合、ヤマサキだ…に服従すると言う人権など微塵も考えていないものだったが…

 


「私たち姉妹を人として扱わないで、自分の持ち物のような扱ったあなたは刑務所で死刑と思っていたのだけど…?」

 


「いえいえ、この亡霊さんが僕を助けてくれましてね…僕としてもナデシコには借りがありますからね…

ですが、その間にナデシコの艦長は君に変わったわけではないでしょう?」

 


「ふ、言ってあげる必要性すらない。あなたに遊び殺された姉や妹たちのことを考えると今すぐに殺したいぐらいね。」

 


「いやだなぁ、あの子達は僕の下僕になって幸せに死んだんじゃないですか。

だいたい、君に生を上げたのも僕なんですから、ちょっとは喜んでほしいものですねぇ…

まあ、いいですけどね。で、本当の艦長のテンカワ・ルリさんは知りませんか?君、知っていますよね?」

 


気味の悪いこの男は、やはりルリがいることを知っていて攻めてきたのだ…しかも警備が甘くなる時期をわざわざ狙って。

計算された行動だったのだろう。ヤマサキは計算して動く方だが、このナデシコCはオペレーターがなければ1cmすら動かない。

しかし、それぐらいヤマサキは知っているはず…と考えたメノウであったが、次の行動に再び茫然とした。

 


「いやぁ、来たみたいですねぇ…サンゴさん。」

 


当時のフェアリー・ガーディアンズ…つまりはマキビ・カナ以下の地球連合の非公開組織

当時でもネルガルのシークレットサービス並みの力を持つ組織が救うことのできなかった

いわゆる『ヤマサキのお気に入り』であったマシンチャイルドの名前がヤマサキの口から出る。

たぶん、その騒ぎの中かその前に死んでいたと思われていた名前だけあり、メノウはその彼女…

資料で見ただけの外見と一致する少女が前で立っていたことに口が開きっぱなしになってしまった。

 


「さてと、僕が作ったウイルスでこのオモイカネを書き換えてやってくれるかな?」


「…分かりました。ヤマサキさま。」


感情を感じさせない…かつてのルリやラピスにも近い、まるで感情が無いように見えるのだ…そんな受け答え方で

そのサンゴはナデシコの艦長席、メインオペレーター席に座る。

 


「プリズナを使ったわね…ヤマサキ…」


「君たちはそういうみたいだねぇ、僕の傑作ナノマシン『ヤマサキ君第七号』を。」

 


気味の悪い…見るだけで吐き気のする顔のヤマサキはそのまま、自分が悪い事をしている事すら自覚もなしに

嫌に響く声で話を続けた。それだけでメノウには精神的に負担だ。

 


「まあ、メノウ君には僕が作った完全なマシンチャイルドの力を見せてあげますよ。

彼女さえいれば、世界はすぐに僕のものになりますからね…」

 


「見学料は、もちろん払う気は無いけど?」

 


「君のこの後の人生で十分に僕には十分なんですよ、逃げるだなんて君の存在意味そのものを否定しているものです。

ああ、逃げようとしても無駄ですよ?ナデシコのクルーは大半を強制排除しましたし。時期にこの艦は飛ぶんですからね。」

 


目の前に、大きなウインドウが開かれた。

この大きな木がオモイカネなのだろう…と直感的にメノウは感じたが

それが次々と赤の占拠されていくのを自分には見ていくしかなかった。ヤマサキが作ったからにはオモイカネが落ちるのは時間の問題だと思ったから。

そして、数分とたたずにオモイカネは沈黙した。

 

 



 

 

ナデシコCの占拠、それはすぐに連合軍佐世保基地司令部に届けられ、そこから地球連合宇宙軍総司令部

及び統合間近の地球連合統合平和維持軍司令本部に届けられた。

それだけではなく、地球連合中央政府にも『裏の事実』…つまりは、特殊犯罪者専用の刑務所からヤマサキだけが逃げたことを

含めたことが届けられていた。

 

「どういうことなのですか?この情報はっ!ヤマサキを逃がしたことはすぐに伝えるべきでしょうっ!

これは一週間前に逃げられたのなら一週間前に私が知っているべき情報です。そんな情報を途中で止めるような

体質だから、こんな連鎖的な事件に続くのでしょう?直ちにフェアリー・ガーディアンズにも回しなさい。」



当初、報告を受けた地球連合中央政府大統領、イリアス・ミスティオールは散々連合保安委員会を責めた後

彼女のお膝元と言って良い組織、連合政府直属のフェアリー・ガーディアンズにその要請をした。

 

だが、その要請を受けた方は、受けた方で混乱、パニック状態であり、すぐに返答が返ってきた。

 


「…総司令のカナと参謀長のメノウがナデシコCにいる?

まったく、こんな非常事態にその張本人になるとは、カナもエンターテイナー性抜群ね。冗談じゃありません。

ただちに中央会議を招集。急ぎなさい。同時に予備役からヒスイを呼び戻しなさい。直ちにです。

統合平和維持軍地球重力圏防衛艦隊にスクランブル発動、大統領権限でやってかまわないから。ナデシコは

すでに相転移エンジンを起動させて、発進体制に入っているのだから、直ちに迎撃体制を整えてください。」

 


さすがは、30代前半で連合大統領まで上り詰めた現ミスティオール家頭首は行動が早い。

命令は即座に連合各方面に飛んだ。それこそ異例のスピードでだ。

地球連合緊急中央政府会議の招集、統合軍も直ちに地球圏に滞在していた第一試験航空機動艦隊が静止衛星軌道上に集結するため

月面、及び地球圏ターミナルコロニー『ツクオミ』『スクナヒコ』『コトシロ』より発進を開始した。

ヤマサキとナデシコ占拠を絡めての異例の事態と予測し、大統領がとった行動は緊急時において的確だったといえる。


しかし、彼女よりももっと驚いていたのは連合宇宙軍司令本部であった。


「ナデシコCが占拠されただとッ!!」


字がデカイのはご愛嬌の連合宇宙軍総司令、ミスマル・コウイチロウ大将は事実が伝えられたとき

その情報を持ってきた総司令付き補佐官を気絶させるかと言うほどの大声で叫んだ。

実際に、鼓膜辺りはずっと耳の中で響いていた、と補佐官はこんな司令に当たるなんて、と思いつつ報告を続けた。

 


「は、はい。連合中央政府からは非常事態に備え、第一種緊急非常事態宣言を発動し

各艦隊は警戒レベルを上げるように言ってきています。ただし、手は出すなと統合軍、並びに地球連合中央政府からの圧力もかかっているそうです。」

 


事前に、イリアスはナデシコ占拠の情報をマスメディアから完全に隔離することにして

各関係各種に圧力をかけるように言っていた。

また、特にテンカワ・ルリの親近者であるミスマル家、またはテンカワ・ユリカ以下のテンカワ家に事が

知れるのを抑えるため、または知られても行動を起こせないようにしていたのだ。

事を大げさにすれば、連合統一という彼女の野望すら絶たれる可能性のある事件がゆえにの行動だった。

 


「どういうことでしょうな、時期に統合軍が宇宙軍に吸収合併されるはずですが、そのナデシコCの保有主である宇宙軍に権限が無く

吸収される統合軍に防衛出動がスクランブルで許されると言うことは?」

 


連合宇宙軍参謀長、ムネタケ・ヨシサダ参謀はコーヒーをゆっくりと飲みながら、コウイチロウと打って変わって穏やかにしていた。

もっとも、彼はこの数分前に佐世保から直接情報を受け取っていたため、心の準備ができていたこともある。

 


「連合としては、きっとC艦のルリ艦長の親族であるテンカワ・ユリカ准将や総司令を考えての行動なのでしょう。

どうやら、ネルガルの情報網だと、裏で隠したい事実…どうやら、ヤマサキが逃亡したことを隠したいらしいようです。

もっとも我々はテンカワ・ユリカ准将に事実を伝えるなとは言われていないが。」

 


連合宇宙軍参謀アキヤマ・ゲンパチロウ中将が送られてきた連合政府、佐世保、更にはネルガルの情報を見てそう言う。

 


「と、とにかくユリカにっ!!ユリカにこの事実をすべて伝えたまえっ!」

 


「そ、それがコミュニケ、及びご自宅にもいらっしゃらないようで…テンカワ・アキト氏も同様ですから捕まったわけではないようなのですが…」

 


「ユリカァァッッッ!!!非常事態だから早く帰ってきなさいっっっ!!!」

 


そんなことを言っても、ユリカがそんなことを知る由も無い。

 


「親バカですな。総司令も。」

 


ムネタケ参謀は、そういうと残ったコーヒーを飲み干す。だが、情報というものは以外と予測できないところから流れ着くものだったりする。

 

 

 


 

 

マキビ・ハリとその家の手伝いであるヒスイ、更にはテンカワ家のルリを除く面子は

しっかりと料理を終えていざ食事の状態になっていた。

 


バラエティーに富んだ食事は、どれもこれも食欲をそそるものばかりだ。

さすがは、料理人テンカワ・アキトと生死のために料理を覚えるしかなかったハーリーだけはある(笑)

もっとも、そもそもアキトが料理人になったのも、親がいなかったり、とても暖かい家庭料理とは遠い生活だったからなのだが…

 


とにもかくにも、すべて揃ったその料理はまさしくご馳走。すぐに食べたかったのだが(特にユリカ)

全員が席に着くまで待てと言うアキトの言葉どおり、しっかりとユリカはッ待ていて、ヒスイとハーリーが席に着くと同時にお箸を取った。

 


「それじゃあ、食べて良いよね!アキト?!いただきま〜〜すっ!!」

 


と、お箸でご馳走であるマグロのステーキを取ろうとした、そのときだったっ!

 



『ヒスイ様、外線の第七番、秘匿回線より通信が入りました。すぐに回します。』


 


ドギャッッ!!!

 

 

いきなりユリカの目の前にウインドウが、しかも地球連合政府の服を来た女性が出てくれば

驚いてお皿の一枚ぐらい吹き飛ばすのは当たり前なのかもしれない。

 

とはいえ、料理だけをしっかりと避けて入れる皿を一気に十枚割るのはある意味で天才な気がする。

 


「な、なんなのよ…痛い、アキト…」

 


だが、そんなユリカの言葉をアキトは聴いているはずも無く、その通信に全員の目は釘付けだった。

いや、移っていた女性が凄いスタイルが良いからというわけではない。外線の秘匿回線で出てきた女性が問題なのだ。

 


「だ、大統領閣下…い、いきなり予備役の私に何のようですか?」

 


連合国民なら誰もが知っていて、遠い存在である連合大統領イリアス・ミスティオールが目の前にヒスイのためだけに通信を繋げていたのだ。

 


『緊急事態以外にあなたに直接通信をすることはありません。

地球連合中央政府の危機ですから、もっといえば指揮権を並べるとフェアリー・ガーディアンズの第三位であるあなたが必要な事態なのです。』

 


いえ、その事態がよく理解できないのですが…とヒスイはためごとを口に出しかかったが

まあ、この大統領がそんな大事なことを忘れているはずも無い。

 


「カナさまやメノウ姉さんはどうしたんですか?」

 


苗字は違うものの、メノウとヒスイは姉妹だ。ちなみに大半の人間はメノウが妹なんじゃ、と思うらしい。

と、銀髪に特徴ある白い肌の連合大統領は無駄な話をする必要性はないのか、すぐに話を戻す。

 


『とにかく、司令本部にきてちょうだい。その話は後よ。とにかく、セントラル・ルーム(中央政府のこと)も会議で大変なの。

よろしくね。』

 

 

 

 

 

通信が切れる。

とにかく、ハーリーは申し訳なかったが、料理は持ち帰ってもらう事にしてテンカワ家の人たちに帰ってもらう事にした。

ヒスイだけいけばよい…そんな気がなぜか彼はしなかった。

姉の所属する…らしい組織『フェアリー・ガーディアンズ』の非常事態と聞いた事が大きな理由なのかもしれないとは

思ったものの、そのとき、考えていた事は姉とそしてメノウのことだけであった。

 


「さて。ハリさん、外に出ましょう。迎えが来ました。」

 


迎えが来ました、と言うヒスイに連れられて外に出るが彼の庭には車など用意されていなかった。

が…なんで、これが…と思わせてくれるものが前にはしっかりとあった。

 


「れ、連合空軍保有のVTOL戦術輸送機『C−100/』…さすがはセントラル・ルーム…なんでしょうか?」

 


「いいえ、これは…カナさまのいる組織専用の改装機で『C−100/250』です。

ステルス機能と光科学障壁が展開可能で、目から完全に見えなくなります。」

 

 


無駄に豪華な装備ですよ、それって。

連合空軍の制空権内でそんな物騒な装備する必要性あるのか

そんな突っ込みを思わずハーリーは心の中だけで入れた。

ここの中だけだ。絶対に外に出せば、何か天罰が当たるような気がする…

と、その飛行機に乗ると、その飛行機は連合軍呉極東方面司令部へと向かった。

 

 


 

 

クシュン。

あ、こんにちは。ルリです。

今、私とカナさんは通路をひたすら這い蹲って移動中。

適当に…カナさんがどこからか用意したか分からなかったですが、血液をばら撒いて、私たちは自爆したってことにしたみたいです。

でも、どうすれば私の足や手、更には…にそっくりなものを作れるんでしょうか?

 


まあ、そんなことを気にしても仕方ないので、私たちは今、ハーリー君の部屋に向かっています。

カナさんによると、浴衣同様に回した服が何着かあるそうで。私は今にも風邪をひきそうです。

まあ、何とかタオルだけは取りましたが…

 



「ふう…にしても、この敵さん、火星の後継者にしてはへそ曲がりな奴らね。むしろ過激派の分類でしょうけど。」

 


「冷静ですね、艦内が占拠されてしまったのに。まあ、オモイカネが占領される前に艦内の警報システムその他のプログラムを破壊

しましたから、このエリアがばれることはないでしょうけど。」

 

「それはあなたも同じよ。まあ、さすがはハーリーが尊敬する艦長さん♪)

 

な、なんとも個性的な言い方ですね…

と、とにかく、まさか、オモイカネが抑えられるとは思っていませんでした。

カナさんは相手にもマシンチャイルドがいると予測しているようです。

と、とにかく、ハーリー君の部屋直上のブロックに到着しました。


ドンドン

 

ドンッドンッ!!

 

 

「以外と簡単に開きました。カナさん。」

 


「蹴りで壊すとは……まあいいけど。さてと。ウリバタケに頼んであった品物が届いているはず・・・あったあった。」

 


ウ、ウリバタケって…ウリバタケさんと知り合いなんでしょうか?

と、そのあったと指す方向には…な、なんなんですかッ!?

 


「等身大カナちゃん、しかも服は統合軍使用。まあ、かっこよさなら統合軍よね。フェアリー・ガーディアンズって

宇宙軍の服が基本なんだけど、宇宙軍の服ってかっこ悪いし。」

 


ま、まあ確かに私も宇宙軍よりは統合軍の佐官や将官が着る青い服の方が格好はつくと思いますけど…

ですが…これはなんですか(怒)

 


「ああ、それはウリバタケに宇宙軍のデータを送って作ってもらった

一分の一スケールの最新型、16歳版パーフェクト・ホシノ・ルリの試作品だったと思うけど。ちなみに同じように統合軍使用。

まあ、私が依頼した当時、統合軍に合併されるって言うのが濃厚だったからねぇ。」

 


目の前には、そっくり…16歳から大して成長していない私ですが、というある意味で凄すぎな等身大の模型がありました。

ウリバタケさん…まさか、火星の後継者騒動のとき、町内会の寄り合いで作っていたのはこれじゃありませんよね?


と、カナさんはそこから服を適当に取り出すと、自分で着替え始めました。

そういう私も着替えです。統合軍用の服を着ることとなるとは思いもよりませんでしたけど。

 


「さてと。着替えも終わったし、これからどうやってナデシコ取りかえすか…ブリッジに直接乗り込んでみようか?」

 


「さすがにそれは問題です。私、ぜんぜん白兵戦無理ですから。」

 


宇宙軍の訓練で、プログラムされている人、一人すら殺せず終わりましたし。

もっとも、私が弱すぎるのであって、ユリカさんでも5人ぐらいは倒せる、甘い判定のシステムですけど。

 


「う〜〜ん、とするとシステム掌握で終わらせる必要性があるわね。ナデシコメインコンピュータ室は?」

 


「ナデシコの特性を考えると警備が高いのは想像できますけど?

私としては、サブ・コンピュータ室か、格納庫ブロックの班長室ですね。」

 


「班長室?そういえば、ちょっと前まで整備とかなんとかでウリバタケが来場していたわね。」

 


「ええ、多分そのせいでシステムへもぐるための一式があると思いますし、サブ・コンピュータ室よりも更に警備は甘いはずです

…って、ナデシコCの乗員データまで頭の中に入っているんですか?」

 


ウリバタケさんに、あの時はちょっと怪しいコンピュータを入れるのは軍艦だから止めてくださいとは言いましたが…

あのウリバタケさんが聞いているはずありませんし。

それで、このカナさんがそれを知っているというのも…いえ、私がハッキングでカナさんのことを知っていたように

カナさんも私が知っているとも思わないことを知っているのかもしれませんね。

 


「それじゃあ、その班長室に向かいましょうか?」


 

 


 

 

 

地球連合中央政府

フェアリー・ガーディアンズ本部(連合軍情報本部局直下)



「お待ちしておりました。ヒスイ大佐。」

 


礼儀に礼儀を重ねたような感じで、迎えに来た中佐さんは言った。

でも、やっぱりというか、まさかです、僕からすれば。

 


『ハリさん、とにかく時間がないので内容はいくつか省略しますが、マキビ家は地球連合中央政府との関係があります。』

 


例のステルス輸送機に乗ってからすぐ、ヒスイさんはいきなり僕にそう語り始めた。

少しは僕も感じていた。あの姉さんが少将だなんてどう見たっておかしい。まだ25にもなっていないのに(24だけど)

 


『ハリさんのお母さん、つまりはミナさんの元の名前はミナ・ミスティオール、ミスティオール家の長女です。

もっとも、駆け落ちに近い嫁ぎ方らしいです、カナ様の言うところだと。

だから、現在のミスティオール家の頭首は、次女が辞退して、三女のイリアス・ミスティオール大統領がなったわけです。』

 


連合でも有数の名家であるミスティオール家、道理で母さんはすべての動作が奇麗で姉さんは礼儀だけは良かったわけだ。

聞いたときにそう思ってしまう僕、姉さんって本当に乱暴だからね。

 


『葛藤に近いものでしたが、父上のローングロム・ミスティオール様の死後、交流は再開し、カナ様はイリアス様と

手を組んで連合の再編に力を注いでいました。火星の後継者騒動の時、ナデシコCの建造を知ったお二人は

統合軍の艦隊を囮にすることを決めて、あえて月と地球の軌道上に統合軍艦隊をどかしました。

ですから、あの宙域を飛んでいたのは連合宇宙軍第二艦隊だけだったわけです。

それで、私とメノウも元々はミスティオール家が行っている『あるプロジェクトの被検体』としていたわけですが

カナ様が、良いか悪いかは後としてハリさんの姉でしたからね、マシンチャイルドの製造に断固反対なされまして。

イリアス様はそのためもあって、現在マシンチャイルド規制法その他の法案を出していたわけです。』

 


その事実は僕は薄々気づいていた、だけど信じるのには少し勇気のいる内容だった。

火星の後継者騒動でも僕たちは姉さんの手のひらで動いていただなんて、にわかに信じがたいことだったから。

でも、多分ヒスイさんの言っていることは事実なんだと僕にも分かった。

横にいた連合軍の人がヒスイさんに連合軍の服を渡していたから。軍服は印象力があるっていうは事実だとその時感じた。

 


『イリアス様が私に通信を送ることなど滅多にありません。

カナ様かメノウ、そのふたりが無理なときしかないはず…つまりは、カナ様とメノウに何かがあったことを意味します。

そして、メノウのメールではカナ様とメノウが今日訪れる最後の場所は…ナデシコCのはずです。』

 


『えっ、それじゃあっ!』

 


『ええ、多分ですが…ルリ様も含めてナデシコCで何かが…』


 


 

世界なんて、弱者の敵という、それを僕は今、酷く痛感していた。

ただ、目の前にいるヒスイさんすら、僕には遠い存在に見えてきていたから。

僕には、分かっていても既に空を飛んでいるらしいナデシコCに行くことすらできない…

これほど、僕は自分自身が何もできない存在だなんて思っていなかった。

オモイカネを利用したシステム掌握なんて何の力にもならないことを。

そして、僕ではルリさんを助けることができないことを。

 


「お久しぶりです、ヤドミツカ少佐。」


「いえ、大佐もお元気のようで…とにかく、現状のすべての情報はメイン・コマンド・オペレーション・ルームに。

それと、こちらは…?」

 


どことなく、ナデシコAのクルーに似た空気を感じさせる、その男の人は僕を見るとそういった。


「カナ司令の弟さんのマキビ・ハリさんです。色々とハリさんにも関係ありますから、ナデシコは。」

 


そんな会話をしながら入った部屋…メイン・コマンド・オペレーション・ルームだっけ、その中は凄かったです。

最新のシステム、それだけならナデシコCでも十分にあります。

ただ、それ以上に凄いのは…

 


「第七番プロテクト、突破されましたっ!五番プロテクトから第三電子小隊侵攻しますッ!」

 


「十五番プロテクトに三人ほどで対応します。他のプロテクトには一人程度に割り振り変更要請をっ!」

 


メインコンピュータだと思う、そのコンピュータ周辺に用意されているオペレート席多数に多くの人が電子戦を仕掛けている様子です。

全員女性…しかも、あの姉さんのデータには『死亡』とされていたマシンチャイルドまで多くいました。

こういうことだったんだ…姉さんの隠していた事実の一つ、衝撃の事実って…

 


《『タケミカガタ』のシステム、10%が侵食されました。

タケミカガタ自立プログラムは、プロテクトコード『G−004』を起動します。

なお、オペレートによる防衛戦はそのまま続行が可能です》

 


合成音声の声となり続けていた警報が緊急事態を知らせていて

ヒスイさんは少し早めのスピードで歩き続けました。僕もそれを追わないと。

 


「マシンチャイルド総動員ですか?」

 


「うちの連中では到底敵わないようです。どうやら『ホシノ・ルリ』クラスのハッカーが

オモイカネを利用して本気で攻めてきているようで。既に連合全体の15%、うちのシステムも10%が侵食されました。」

 


「えっと…僕がヒスイさんの呼ばれたのはこういう理由ですか?」

 


艦長…ルリさんのことが心配でさっきからずっと固まっていた僕は何とかそれだけ言った。

すると、ヒスイさんはちょっと笑うと話を戻す。

 


「分かりません。それをやっていただく場合もあれば、ナデシコCの逆占拠を行う可能性もありますから。

ただ、今、ここで知ることができる限りの情報は、ハリさんが思っていること、ルリさんを助けることには繋がりませんか?

ああ、カナ様もそうですけどね。」


 

その笑みが天使のような、だけどまるで物事の本質を知っているかのような笑みは僕に少しだけ冷静さを取り戻してくれた。

最低でも、今、自分にできることはないわけではない…

待っていてください、ルリさん、カナ姉さん…心の中で僕はそういうとヒスイさんを追いかけて急ぎ足で走り始めた。

 

 

そう、僕のもっとも好き…『Dearest』…ルリさんと最も信愛している姉のために……

 

 

 

 


 

 

 

 

後書き

劇ナデのエンディングテーマ

『Dearest』

意味はもっとも愛するって言うことは多分、調べた人とか英語得意な人なら誰でも知っていることです

(ちなみに私は英語苦手なので、この意味わざわざ調べました…汗)

多分、その歌にルリルリバージョンがあることからルリの心情を描いていると思いますが

(ハリ×ルリものなのに、そういうと色々も問題ありになるのでこれ以上は…)

僕の話のハーリー君は、既にあのときから数年経過していることもあって以外と冷静です。

のときみたいに右で大声出して、左で泣き続けて…ということはありません(笑)

ただ、そうしていることの意味がないことを知ってしまっています。ルリの経験という事実で。

まあ、シリアス系になりつつあるこの話でボケハーリーだと困るってこともあるんですけどね(微笑)

 

 

ミスティオール家とハーリーの母さんが血族で、ミスティオール家とピースランド王家が親族なら…

ああれ、ハーリーとルリって遠い親戚っ!?

ハリ×ルリにするうえで一番問題な話にしてしまった気がする…

でも、実際のところルリ(瑠璃)とハリ(破璃)なんて名前を付けているところからして、何か関係ないって感じもないですけどね。

 

 

さあ、僕がナデシコ劇場版で一番面白いキャラだと思ったのが以外とヤマサキ(笑)

ちなみに、このヤマサキとTV版でジュン君にナノマシンの注射しようとしていた人って感じが似ていると思うのは僕だけでしょうか?

いや、関係ないですけどね。

今回、ヤマサキに出てきてもらったのは、彼が火星の後継者でも一番の悪だと私は思うからです。

草壁中将は、方法はまずかったですが、新たなる秩序という言葉と目標だけなら確かに繰り返される世界の歴史の中でないわけでもない。

この場合、独立派が草壁で保守派が地球連合、ナデシコは良いところで中道派だけど保守派よりの考え。

ナデシコを敵に回す(要はアキトなどで人体実験した)さえなければ、非人道的なことをしなければ彼の主張は間違えではない。

もっとも、月臣さんの言う通り『生みの苦しみ生まれるは必然』ですが、世界はそうして毎回新しい指導者が生まれたわけです。

で、火星の後継者で彼が残っていたら、この後の話にも邪魔になるのでさっさと退場してもらいたい

火星の後継者だった正義なんだ、というところを作りたいのでこの外道野郎には消えてもらう予定で始めています。

もっとも、外道らしく最悪なこともいくらでもします。お約束もしっかりと入りますよ(それがナデシコたる由縁ですから)

 

 

 

 

最後に、おまけを付けておきます。

 

 

 

おまけ

ルリルリの独り言コーナー(11歳バージョン いわゆるTV版最初のアバン?)


ルリです。まったく、未来の私とハーリー君ふっつけようだなんて、この作者さんも問題よね。

とにかく、チャレンジがモットウらしいけど、無謀な挑戦だと私は思いますし。

で、無謀で無茶苦茶なことした未来の私、テンカワさんのことで思い悩んで死にたいだなんて思う時期があったらしいから相当なもの。

それで今度はハーリー君かテンカワさんか…まあ、悩むのは勝手だけど

それで問題があれば、その場で対応しようだなんて考えないで欲しいな。

まあ、結局、人間なんて遺伝子に支配されている機械、人が好きになれば私もそうなるのは未来の私が証明しているけどね。

それで、次回の予告をしてって作者さんに言われているので予告をします。

 

次回は『月に惹かれた太陽』

 

自らの光で照らされているとも知らず、太陽は月に恋した…

まあ、ありがちな予告よね。では、次回も見てあげてください。一応、作者さんからの希望なんで。